「減圧法」はうまくいくのか?
技術的なベースは石油や天然ガス探査で使われる地震探査手法だ。そこに(1)BSR(海底疑似反射面)、(2)ダービタイト砂泥互層、(3)強振幅反射波、(4)高速度異常など四つの指標を組み合わせることで、世界で初めて濃集帯を捕捉するノウハウを確立した。メタンハイドレート探査部門のリーダーを経て、現在JOGMEC石油開発技術本部技術部メタンハイドレート開発課長の佐伯龍男氏は、千葉市美浜区にあるJOGMEC技術センターから、海洋産出試験のバックアップをした。濃集帯探査の手法について、こう語る。
「四つの指標を使えば、濃集帯をかなり正確に推定できます。この方法は国際学会でも紹介しており、物理探査の専門家ならその内容はすぐ理解するはずですが、推定作業を行うには実際に経験があるかどうかがとても重要です。フェーズ1(2001~2008年)以来、私たちは東部南海トラフの地震探査を行なって得た経験が生きています。現在は、いろんな海域に応用できるノウハウを蓄積しています」
船上のスタッフは、深度差わずか3~4メートルの正確さで、佐伯氏らが推定した濃集体の地層に生産坑井を打ち込んだ。メタンハイドレートのターゲットをとらえた。その前後、激しい春の嵐が襲来したが、ちきゅうはスラスターをフル稼働して定位置を懸命に確保し、坑井パイプの切り離しを回避した。
清水港を出て45日目の3月12日早朝、「減圧法」でメタンガスを生産させるためのポンプにスイッチが入った。高圧低温の海底でメタンを水分子が取り囲んだ固体結晶からメタンだけ取り出すには、坑井の水をポンプで抜いて杭底の圧力を下げる減圧法が用いられる。フェーズ1が始まった当初、カナダ北西部の永久凍土での陸上産出試験では温水を坑井に循環させる方法が採られたものの、ほとんど機能せず、約5日間のガス生産の量は約470m³。一日平均約90m³に留まった。MH21は生産手法の中心を減圧法に切り替え、技術を磨いた。
減圧法は、札幌の産総研のメタンハイドレート研究センター長・成田英夫氏のリーダーシップによって開発されている。2008年の第2回陸上産出試験では減圧法で約5.5日間、一日2400m³のガスが生産されていた。海洋産出試験で、はたして、どれだけの量のメタンガスを、どのくらいの日数、生産できるだろうか。エネルギー資源関係者の視線が東部南海トラフに吸い寄せられた。