大水深資源開発の難しさ
資源フィールドの開発面積は9.6km²、そこに49本の坑井を掘る。1本の坑井の生産期間は8年とし、全体の生産期間15年として経済性を評価している。その結果、1坑井当たり日量平均5万5600m³の生産レートで、生産原価は46円/m³というデータが示されている。この経済性評価は長年石油産業に携わり、石油事業に精通した人物が中心となって行なわれたものだ。今回の海洋試験での2万m³という平均日量が、なぜ関係者に衝撃を与えたか、察していただけるだろう。
問題は、大量のガスを、いかにして長期間安定的に生産するか、である。2年後ともいわれる次回の海洋産出試験では、どのくらいの期間のガス生産を目ざすのだろう。2週間、3週間、あるいはひと月……。成田氏はあっさりと言う。
「いろんな意見がありますが、メタンの分解域が拡がって、生産量が伸びることを確認するには、地層にもよりますが、3~6カ月かかるでしょう。そのくらいの期間、生産できれば、信頼性の高い生産シミュレーション技術の評価ができます」
半年単位での生産実験となれば、「ちきゅう」では技術的にも経費的にも対応できないのではないか。船が荒天で坑井パイプを切り離すようなリスクを抱えていては、実験は半年も続けられまい。おそらく海底に生産装置を据え、ライザーで海上の浮体施設にガスを回収するような、既存の大水深ガス田開発システムの応用が求められるのではないだろうか。
だが、エネルギー資源を輸入に頼ってきた日本に、大水深を開発する技術的蓄積があるとは思えない。次回は、海洋エネルギー資源開発の最前線に焦点を当て、商業化に向けて超えねばならない「壁」を具体的に描き出してみたい。
[参考資料]
・新しい天然ガス資源 メタンハイドレート 「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」フェーズ2(メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)
ノンフィクション作家
1959年、愛媛県生まれ。出版関連会社、ライター集団を経てノンフィクション作家となる。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマにエネルギー資源と政治、近現代史、医療、建築など分野を超えて旺盛に執筆。主な著書に『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『原発と権力』(ちくま新書)、『田中角栄の資源戦争』(草思社文庫)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』(草思社)、『成金炎上 昭和恐慌は警告する』(日経BP社)、『放射能を背負って』(朝日新聞出版)、『国民皆保険が危ない』(平凡社新書)ほか多数。