点数だけをみると、日本企業と比較してもさほど高くないように思える。しかし、あくまでこれは最低のライン。大学入試の足切りのようなものである。新入社員のTOEIC平均点は900点を超えるといわれており、入社時の留学経験者も文系職種で約40%、技術系で約50%いるという。
「TOEICが何点あろうが、あまり意味がない。英語をやることが目的ではなくて、あくまで手段。サムスンは、日本企業よりはるかにグローバル化が進んでいます。課長クラスになると、複数の国籍からなる社員を集めて会議をすることが多い。国籍が2カ国なら通訳を交えればすむ。でも、3カ国以上になれば、必然的に公用語は英語になる。だから、正確に意思疎通ができる英語力が必要なんです」(吉川氏)
もともと高い英語スキルを持った人だけが晴れてサムスンの社員になれるわけだが、入社後、語学力は社内でさらに磨かれる。
語学研修や人材教育が一手に行われるのは、ソウルから南に車で1時間ほどの龍仁(ヨンイン)にある「人力開発院」と呼ばれる施設。新人から役員候補まで、年間4万人の社員がここで泊まり込みの研修を受ける。
語学に関してのプログラムで代表的なものは、新任の駐在員が5週間、赴任3年目の駐在員が1週間合宿する「海外駐在員養成プログラム」。海外業務担当者が10週間合宿する「外国語課程プログラム」など。期間中は、食事や休憩などすべての時間を当該語で会話することが義務づけられる。
「寝言でハングルを喋っても、追い出されてしまうといううわさまで立っていました」(吉川氏)
また、インターネットを通じて自宅で学べる外国語講座も用意されていて、各自がオンライン学習で語学力向上に努めているという。
日本企業ではTOEICの基準点を超えた社員に対し、報酬を与えるところもあるが、サムスンには金銭的なインセンティブはない。研修の結果、目標レベルに達しない場合は、その費用を負担させられるという話もあるそうだ。内部関係者によると、費用負担を逃れるために必死で勉強し、実際に払わされた例は聞いたことがないという。