もうひとつ、サムスンの海外戦略を語るうえでキーになるのが「地域専門家制度」。日本を含めたアジア諸国、欧米はもちろん、南米やアフリカなど、各国に人材を送り込み、その国の情報収集をするという仕組みだ。

「20代後半、30代前半くらいの幹部候補を送り込んでいます。面白いのは特に課せられる仕事がないこと。半年から1年間、自由に現地で生活をする。レポート提出の義務はありますが、極端な話、赴任先が日本ならパチンコをし続けてもいいんです」(吉川氏)

現地に飛ぶ前には、英語教育と同じく3カ月間、「人力開発院」に缶詰めになって学習する。特徴は、その国の文化を叩き込むことだ。

「私も日本駐在者向けの講師として参加したことがありますが、5人の日本語講師の中にはカラオケを教える人がいて、100曲くらい覚える参加者もいた。歌舞伎などの伝統文化も教えていたし、教室の片隅に能の舞台が作られているのを見たときには、ここまでやるのかとびっくりしました。最近では英語圏よりもアフリカ、中東といった場所に行くケースが増えているようです」(吉川氏)

語学力習得に熱心なのはサムスンだけではない。LGエレクトロニクスは08年から英語を公用語として、経営会議は英語、資料やメールも英語での作成が義務づけられている。同社の新卒のTOEIC平均点も900を超えるといわれている。

トップ企業に勤める社員だけでなく、日本人と韓国人の英語力の差は、図からも明らか。00年を境にその差は広がるばかりだ。

図を拡大
日韓のTOEIC比較

はたして、サムスンをはじめとした韓国企業に死角はないのだろうか。

「語学力では完全に韓国の勝ち。ただし、科学技術が蓄積されていないのが弱点です。サムスンでは、成果が出ないとたった1年でも担当者が代えられる。それでは技術は伸びない。このまま目先の成果を求め続ければ、いずれ中国に抜かれるでしょう」(吉川氏)

日本企業が追いつくことも可能だ。

「技術力では日本が勝っているので、長所は伸ばしていく。そして、弱点の語学力を見直すこと。TOEICばかり言っていてはダメです。日本の経営者が目指しているのは、日本を基盤とした“国際化”。本当にグローバルを目指すなら、仕事で使える英語力を徹底的に鍛える必要があります」(吉川氏)

技術力を生かすための英語力。英語力向上は、目的ではなく手段であると肝に銘じておこう。

(PANA=写真)
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