<バンスなどトランプの側近たちは、イラン問題については外交的解決を献策していたが…。「平和主義」の大統領が核施設攻撃の命令に踏み切った理由:サム・ポトリッキオ>
空母の滑走路上にある戦闘機
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アメリカのネット空間に奇怪な画像が浮遊している。2003年の対イラク戦争を主導したジョージ・W・ブッシュ政権の要人たち(副大統領のディック・チェイニーなど)が怖い目でカメラをにらんでいる写真で、「イランを爆撃するのはこの面々じゃなくて、リアリティー番組上がりのセレブだと20年前に言われていたら?」というキャプションが添えられている。

言うまでもないが「この面々」は民主主義の輸出によるアメリカの覇権を唱えたネオコン(新保守主義者)の急先鋒であり、「セレブ」は今のアメリカ大統領を指す。

実際、第2次トランプ政権は(外国での)戦争よりも(国内での)製造業を優先する立場で、イランとの問題は外交努力で解決すべきと考えていた節がある。だが政権発足から半年とたたぬうちに、露骨な武力行使に踏み切り、6月22日に中部フォルドゥなど3つの核施設を爆撃した。なぜか。

保守派の論客キャンディス・オーウェンズに言わせると、そもそも「トランプ革命」の原点にはアメリカを終わりなき戦争の泥沼に引きずり込んだネオコン思想の拒絶があった。しかし今回のイラン空爆はネオコン戦略のほぼ丸写しだ。彼女は自身のYouTube番組で言っている。「これでトランプは自分の支持基盤を砕いた。私たちの子供を外国の戦地に送り出すネオコン一派に対する宣戦布告。それこそがMAGA(アメリカを再び偉大に)なのに」

忠実で強固な支持層がいなければトランプは無力だ。そういう岩盤支持層がいればこそ、ほぼ一貫して支持率が50%を割っていても安泰だった。しかし今、その岩盤が2つに割れたようだ。「とにかく戦争なんてごめん」派と「イランには絶対に核兵器を持たせない」派の2つに。

とはいえ側近たちは政治感覚が鋭い。MAGA陣営のチャーリー・カークやスティーブ・バノンのような大物を引きずり込み、ホワイトハウスで軍事的非介入を主張させた。保守派の人気司会者タッカー・カールソンがイラン脅威論を唱える共和党のテッド・クルーズ上院議員をインタビューでつるし上げたのも適度なガス抜きとなり、トランプ応援団の怒りは収まった。

カークなどは「洗濯機くらいの小さな標的に14トンもある巨大爆弾を落とし、中東圏には着陸することなく無事に帰国した」というJ・D・バンス副大統領の精密爆撃を称賛する言葉を引いて、「政治的にはともかく、この快挙は誇りとすべきだ」と投稿している。結果、共和党支持者の約85%は今回の空爆でアメリカはより安全になったと評価した。ただし戦争の拡大を懸念する共和党支持者も62%いる。

今回のイラン爆撃の背景には、劇場型のパフォーマンスと「強い男」らしさの演出というトランプ主義に加え、アメリカの従前の中東戦略(とりわけイランとの対話にこだわったオバマ政権の路線)と決別したい共和党の願望もあった。国際政治学者のイアン・ブレマーが自身のメディア「Gゼロ」に書いている。「トランプ大統領は今回の空爆を1回限りのものと位置付けた。派手で単純、TikTok映えする戦争で、これなら彼の支持層に受ける」