「宣言」では「全世界の覇者」「全世界最高峰」などの言葉が目を引くが、これは本田さんの口癖でもあった。クルマの開発でアイデアを提案すると、「それは世界初か」「世界一か」と決まって聞き返されたという。
一方で、足元を見ることも忘れない。
「宣言」でも、「綿密な注意力と真摯な努力」が強調されている。工場に貼った直筆のスローガンも「安全なくして生産なし」だった。「目標は高く、評価は厳しく」というように、ロマンと現実の両極を押さえるところは、技術者マインドそのものだろう。
70年にアメリカで大気清浄法改正の通称「マスキー法」が可決された際もそうだった。厳しい排ガス規制に他の自動車会社が対応不可能と抵抗するなか、本田さんはマスキー法クリアを宣言する。そしてホンダは2年で環境エンジンCVCCの開発に成功した。
本田宗一郎の「宣言」は、技術系カリスマ社長ならではのロマンに満ちた檄文である。
(澁谷高晴、小倉和徳、藤井泰宏、向井 渉=撮影)