2003年春、日生グループのビル管理会社へ出向した。公共施設の整備やサービスの提供などを請け負う「PFI」の管理などが担当だった。55歳になるときで、初めて生命保険と無縁の仕事だ。「もう、生保の世界に戻ることはないな」と思い、後輩たちへの「遺言」のつもりで『生命保険入門』(岩波書店)と題した著書を書く。

ところが、2006年3月、友人からの1本の電話で、思いもしなかった「復帰」への道が開ける。投資事業を営む人が生命保険に詳しい人を探していると言われ、会いにいった。説明を終えると、「一緒に生命保険会社をつくりましょう」と誘われた。即座に「いいですよ」という答えが、口を出る。燃え尽きていないものが、まだ体内にあったのだろう。会社設立の準備を始め、ライフネット生命保険の誕生へ向かう。

2008年5月、開業した。各種のデータから、照準を20代や30代、40代の子育て世代の死亡保障に当てた。インターネットで直接販売することでコストを抑え、保険料を一般生保の半額にすることも目指す。4カ月後、契約者アンケートの結果が出た。59%が30代、19%が30歳未満、15%が40代と計93%が照準を当てた世代だ。保険料は月に平均6942円の節約ができ、削減率は47%。「半額」という目標も、ほぼ達成している。

40代で取り組んだ金融制度の改革は、生保各社にとってビジネスの可能性がすごく広がったはずだ。だが、それを十分に活かせたか。損害保険への参入は、成功例が乏しい。失敗はある程度、予測できた。業界内の「横並び」の意識や面子へのこだわりが、まだ強い時代だった。

とはいえ、あの大改革があったから、保険業法の改正もできて、生命保険の自由化への流れが始まった。自分は、その流れに乗れた。2012年11月、当初の事業計画で掲げた「開業後5年以内に保有契約15万件」を、半年早く達成した。やはり「見微知萌」は大きい。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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