私(野地秩嘉)は「セレブも認めるディスカウンター」スーパーオーケーの飯田勧社長にさらに追求した。
「では、客を裏切ったことはないとして、客が一番の裏切りだと感じることは何でしょうか?」
すぐに答えが返ってきた。
「嘘をつくことでしょう。表面的に『安い』と言って、実は安くないのは裏切りです。だから、うちは他の店よりも絶対に安くしている。ただし、他店と同じ条件にはしています。
たとえば、ある日、ひとつの商品を500個限定で特売する店が近隣にあったとします。そうしたら、うちも同じ条件で、つまり500個限定で、少なくとも同じ値段にはします。だが、見切り商品の特売はしません。賞味期限がその日までの商品を激安にすることはしない。それは客を裏切ることだから。だって、たとえば賞味期限が翌日までの牛乳なんて、買ったとしても1日で飲みきることはできない。それはやらない。
そうした賞味期限がぎりぎりの品物が店舗に残っているのは発注の失敗です。自分の失敗をお客さんに転嫁してはいけない。裏切りは信用をなくす元です。それはしない」
オーケー用賀店の売り場で立ち止まって考えた。安心して買い物できることがいかに心にゆとりをもたらすか。そこには計り知れない満足感がある。
チラシを持って、方々の店で特売品を買って歩くことが主婦の勲章のように報道されるけれど、誰もそんな面倒なことはやりたくない。喜んでいるのはそうした姿を画面に映し出すテレビ局だけだ。安いものを手に入れるためだけに、右往左往することを喜びと感じている人はいない。それよりも、相手を信頼して、品質や値段のことを忘れて、毎日、同じ店へ行くことの方がよほど楽だし、安心だ。
オーケーが客に約束しているのは、そういったささやかな安心なのだ。
用賀店の入り口にオーケーが発行しているチラシが置いてあった。「オーケー商品情報」と書いてあった。世の中に存在する紙のなかでもっとも薄くて、もっとも安っぽい紙でできたチラシだった。印刷費もケチっているようで、写真も少ない。色もきれいではない。商品名と値段だけが満載された無愛想なものだ。
片隅にこう記してあった。
1 商品の品質が良くなかったら。
2 商品の値段が安くなかったら。
3 人気の商品が置いてなかったら。
4 欲しい商品が置いてなかったら。
5 サービスが良くなかったら。
6 その他 何でも教えて下さい。
読みながら感じたのは「オーケー社長の飯田勧に私が教えるなんてことは何ひとつない」ということだった。
※この連載は『プロフェッショナルサービスマン』(野地秩嘉著、プレジデント社)からの抜粋です。