2012年3月の開業日から6か月間稼働率100%を達成した旭川のスーパーホテル支配人西尾寛司(現在はスーパーホテル新横浜の支配人)はリピーター率が高いことについて、こう語る。

「自分は他のホテルならば逃げてしまうようなお客さんを大切にしているから」

西尾は続ける。

「僕自身、経験があるんですが、チェックインの時間を過ぎて、夜遅くホテルに着くと、フロントの人が不機嫌なんですよ。新幹線の時間が遅れた、事故で道が混んでいた、営業先との会食が長くなった……。そんな時、やっとホテルに着くと、『お客さん、チェックインは午前0時までなんですよ』って不機嫌に言われる。猛烈に腹が立ちます。こっちだって、申し訳ないと思いながら、フロントに行くのだから。腹を立てながらも、僕は、バカなフロントだなとも思っていた。お金をもらって泊まってもらうのに、嫌味を言ったら、その客は2度と来ないでしょう。

遅く着く客だけでなく、酔っ払いや言葉遣いの乱暴なお客さんがいます。面倒くさい人たちです。たいていのフロントはそういう人が来たら、『すみません、満室です』と断ってしまう。面倒が嫌だから、逃げているんです。

でも、僕は逃げません。泊まりたい人を泊めるのがホテルやないですか。遅く着いても、酔っ払いでも、言葉遣いが乱暴でも、お客さんなんです。自分が嫌だからと逃げていたら、売り上げなんか上がりません。

僕は酔っ払いならホテルの部屋まで案内します。暴力的な人は困りますけれど、ほとんどの人は酔っ払っても、内心はすみませんという気持ちを持っている。事実、翌朝になると、迷惑をかけましたと謝ってくる人がほとんど。ある漁師さんなんか、酒飲んで大声出して悪かったと箱一杯のイカを送ってくれました」

西尾が語ったことが彼がビジネスホテルでやっているサービスの真髄だろう。リッツカールトンの洗練されたサービスとは多少、異なるところがあるけれど、本質的には似ている。客が本当にやってほしいことをやる。しかも、他のサービスマンたちが避けて通ることをやる。西尾の考えたサービスとは泊まりたいと思っている人に宿を提供することだ。

ずっとそばで見つめてきた涼子は夫がもっとも勉強し、成長したのは旭川のホテルを運営していた時代だと感じている。

「私たちにとってビジネスホテルの仕事は勉強です。なかでも、いちばんの勉強は人とかかわっていくこと、ちゃんと話をすることだと思います。人とのかかわりは世の中でいちばん大切なことです。

私はお客さんとちゃんと話しました。掃除の現場で働くお母さんたちとは、お菓子を食べながら話しました。アルバイトの女の子とも向き合って話をしました。話をしていると、みんな、大変なんだなあと思います。大変な思いをしながら仕事をしていることがよくわかります。毎日が勉強でしたから、休みがなくても楽しく暮らしています」

※この連載は『プロフェッショナルサービスマン』(野地秩嘉著、プレジデント社)からの抜粋です。

(構成=プレジデント書籍編集部)