関税を最も醜い形で経済戦争の武器にしている

ドナルド・トランプ米大統領がわがもの顔で世界経済を振り回している。

2025年5月22日、トランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)
写真=AFP/時事通信フォト
2025年5月22日、トランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)

「辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」。そう豪語するトランプ大統領は、関税を最も醜い形で経済戦争の武器にしている。もはやそこに世界を納得させる論理はない。あるとすれば「米国の利益第一」という点だろう。

4月2日の発表は衝撃的だった。すべての国からの輸入品に対して一律10%の関税を課した上で、さらに貿易赤字が大きい国に対して「相互関税」を課すとしたのだ。日本に対する税率は何と24%。どこから24%という数値が出てきたのか、当初は誰も分からなかったが、どうやら貿易赤字をチャラにするのに必要な税率ということのようだと、後に分かってくる。

米国が「経済戦争」で最も敵視する中国に対しては、4月2日の発表では34%だったが、これに中国が対抗措置を示したことで引き上げ合戦に発展、145%という高率の追加関税を課すとした。そんな米国の強硬策に世界各国は言葉を失い、金融市場で米国債が暴落するなど大きく揺れた。

輸出戦略すら立てられない

ところが、市場が混乱するとトランプ大統領は「相互関税」の適用を3カ月間延期。さらに各国との個別交渉で、相互関税の税率を大幅に引き下げる姿勢を見せる。5月8日には英国との間で合意に達し、10%の関税は維持した上で、25%としていたイギリス車の輸入関税を年間10万台を上限に10%にするなどとした。

さらに、中国とは5月10日からスイスで二国間協議を行い、米国の中国からの輸入品に対する追加関税を145%から30%に引き下げ、米国から中国への輸入品に対する税率を125%から10%に引き下げることで合意した。相互に115%分の税率を引き下げるという大幅な引き下げで合意したわけだ。

結局、トランプ大統領が打ち出した「相互関税」なるものの高税率は「脅し」で「交渉のための武器」にしているということが明らかになった。もはや米国に輸出している世界の事業者は、自社製品に現状で何%の関税がかかるのか、正確に読むことすらできなくなっている。自国から直接輸出するのが有利なのか、海外の第三国の工場から輸出した方が税率が低いのか、そうした輸出戦略すら立てられず、世界に広がったサプライチェーンが機能麻痺に陥っている。