接待を成功させるにはどうすればいいのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉さんの連載「一流の接待」。第1回は神楽坂のレストラン「ラリアンス」熊谷誠社長が語る「食事中のマナー」(後編/全2回)――。
神楽坂のフランス料理店「ラリアンス」を運営する熊谷誠社長
撮影=門間新弥
神楽坂のフランス料理店「ラリアンス」を運営する熊谷誠社長

会食のプロが伝授する「食べるマナー」

接待における会話の内容に触れる前に、会食のうちの「食べる」部分の接待マナーを記しておく。

達人の熊谷氏は次のように丁寧に教えてくれた。

「いちばん重要なのは、お客さまのペースに合わせるということです。お客さまが早く召し上がる方だったら、そのスピードに合わせてさっさと食べる。接待の場合は和食でもフランス料理でも、コース料理ですから、食べるのが遅いとサービスの人間は次のお皿を持ってくることができません。

逆に、食べるのが遅いお客さまであれば、そのペースに合わせていかないといけない。ホスト側はゲストの主賓の食べるスピードに合わせることです。

なかには話に夢中になってまったく食べない方がいらっしゃいます。一皿の遅れはお声がけしませんが、二皿も溜まってしまう方には『お済みですか?』と声をかけて、お皿を下げます。『まだ食べてる』と言われたら、その場合はお皿を下げることはいたしません。ただし、声をかけるのはサービスの人間にまかせるべきです。接待する相手に向かって、『早く食べてください』と言うことはありません」

意外とやりがちな“言ってはいけないこと”

「フランス料理の場合、お皿の上にフォークとナイフを揃えておいたら、『片付けていいですよ』というサインになっています。ただ、そうしたサインを覚えなくても、サービスの人間はお腹いっぱいなのか、それとも嫌いで残したのかはほぼわかります。サービスの人間にまかせてください。

そして、サービスするスタッフに気を遣わず、ホストの方、ゲストの方は和気あいあいで食事してください。それをサポートするのが私たち、サービスの人間です。

ホストの側は好き嫌いなく楽しく食べる。時々、ホストの方で場を盛り上げるために『どうですか? この店の得意料理なんですよ、これ。おいしいでしょう』と言う方がいます。

これは言わないほうがいい。基本的にはゲストが『おいしいですね』と言ってから、ホストが『はい、ここの得意料理なんです』と後を引き取る。そうでないと会話が続かないし、ゲストに『おいしいだろ』と強要していることになってしまいます。そして、ゲストが何も言わなかったら、その時初めてホストが『お口に合いますか?』『いかがですか?』と聞く。すると、ゲストは何かしら答えます」