開業資金は議員事務所時代に給料から天引きで貯めた200万円ほど。それは当面の生活費に充てた。事務所は、最初の数年はほかの会社に間借りさせてもらった。
「社労士の仕事は事務所でなくとも、家でもできますし、大きな仕入れがあるわけではないので、開業資金はそれほどかかりません。それに毎月支払いがある顧問契約が多いので、収入も安定します。定年後に始める方も多いです」
とはいえ、当初は資格学校で教えたり、コールセンターでのアルバイトをしたりなど、三足のわらじを履いていた。
現在は他の社労士や行政書士とともに合同事務所を構え、顧問契約を結ぶクライアントは17社を数える。労務関係の相談や給与計算などを日常的に行っている。議員事務所に勤務していた頃の年収を超えたのは、3年ほど前からだという。
「会社員時代と比べると、お金や時間を自分の使いたいように使えるのがうれしいですね。今はクラウドの環境もあるので、家でもある程度同じように仕事ができます。大きな会社でもない私個人と契約してくださる方がいるということのありがたさにできる限り応えていくためにも、勉強を続けてもっと頑張らなくちゃいけないと思います」
労働問題に心理学的なアプローチをする産業カウンセラーの資格も取得。大学院への入学も検討しているという。
「会社ともめている労働者の話に耳を傾けて、経営者側の思いを伝えるだけでも問題が解決することがよくあります。そうしてお客さんの負担を減らせたと思えるときに心からやりがいを感じます」
独立してから不安に思ったことは「厚生年金がないこと(笑)」。しかし、雇われない生き方を選んだことで、かけがえのない働きがいを手にした。
(向井 渉=撮影)