首都圏では過密化が進行し、地方では過疎化が進んでいる。神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんは「能登半島で復興が進まないのは、政府に復興させる気がないからだ。だが、過疎地にはコストをかけないというのは、合理的な判断とはいえない」という――。

※本稿は、内田樹『沈む祖国を救うには』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。

土砂崩れでふさがれた道路
写真=共同通信社
能登半島地震の後に発生した土砂崩れでふさがれた道路(=2024年3月、石川県志賀町)

急速に進む地方の過疎化問題

首都圏に人が集まって過密化が進行し、他方地方では過疎化が急速に進んでいます。先日、能登半島で地震がありましたが、復興が進んでいません。なぜ、こんなに復興作業が遅れているのか。それは政府に「復興させる気がない」からです。

今回の激甚災害の被害は、少子高齢化で人口が減っている過疎地に集中しています。そのような過疎地に復興コストをかけるのは無駄だと考える人が政策決定にかかわっている。だから復興を意図的に遅らせている。

「高齢者は故郷に戻って、家を建て直し、生業を再開するだけの気力も体力もないから、遠からず仮設住宅にいるまま鬼籍に入る。そうなると、住民がほとんどいないような集落へ続く道を修復したり、そのためのライフラインを補修したりする必要はない」そういう考え方をしているのです。「健康で文化的な生活がしたかったら、都市部に引っ越せばいい。山の中の過疎の集落のために道路を通す、橋をかける、トンネルを通すとか、そんなところに予算を投じることはできない。行政コストの無駄遣いだ」、そういうことを公然と語る人もいます。

江戸時代の人口は今よりはるかに少ない3000万人前後

多くの人がそれに反論できずにいる。コストとベネフィットというふうなビジネスの用語で語ると、「過疎地にはコストをかけない」ということは合理的な判断のように思えます。でも、これは明らかに言っていることがおかしい。「人口減」と言われますが、今でも日本列島には1億2500万人いるのです。

江戸時代の人口はだいたい3000万人前後で推移していました。276の藩があり、これらの藩は原理原則としてエネルギーと食料に関しては自給自足でした。それぞれの藩ごとに特産品があり、固有の文化があり、固有の技術があり、人々は伝統的な祭祀儀礼芸能を守っていた。人口3000万人の時に、全国津々浦々に人が暮らし、生業を営むことができたのです。それが人口1億2500万人では「人が少なすぎて」不可能になったと言われも、僕は納得できません。