初任給は三万円

【北尾】ライバル関係にある研修生とはどういう距離感でやっていたのかな。

【真介】柴木さんが悪役になってくれたおかげで結束が固まった。よく一緒にいたのは、店の近くの寮に住んでいた研修生ですね。研修生は二万円で、店が借り上げていた風呂なしトイレ共同の昔ながらのアパートの部屋に入れたんですよ。だけど給料は安い。研修生は三万円から始まって徐々に上がってはいくんですけど、とにかく金欠。自宅から通っていた僕なんてマシなほうで、寮にいる研修生たちは……。

復刻メニュー
写真提供=お茶の水、大勝軒
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【北尾】食事して銭湯に行ったらもう終わりだ。

【真介】僕は最終的に八万五千円まで上がったんですけど、そんな額でも気分は高給取りでしたからね。

【北尾】それじゃあ、開業資金を貯めるどころではない。

【真介】はい。毎日、あまりにも過酷なので、数人の研修生と気分転換に隅田川花火大会を見に行ったことがあるんです。最初はみんなで盛り上がってたんですけど、帰る車内では全員無言になっちゃった。明日はまた早起きして、柴木さんに怒鳴られるかと思うともう憂鬱で喋る元気も出ない。

【北尾】修業期間は決められているんですか。

【真介】期間は決まってないです。スープの仕込みや麺上げなどをマスターに見てもらい、合格すれば卒業となり、のれん分けもしてもらえます。マスターは弟子を信用する人なので、なるたけ卒業させてくれていたんだと思います。弟子志願者が列を成しているので、ある程度できるようになったら次を迎え入れる方針だったんでしょうね。年齢は二十代から五十代まで、まったくの素人もいればラーメン屋をやっていた人もいました。

【北尾】のれんは比較的短期間で手に入るけど、よほどしっかりしていないと独立後に苦労するのが目に見えている。

【真介】研修生のうち卒業できるのが半分程度。独立して成功する人となると、そんなに多くはなかったと思います。独立した先輩たちが“討ち死に”するのを見て、僕は一通りできるだけでは足りないと感じていました。スープ一つとっても、研修中なら味のチェックを受けられるけど、独立したらすべてを自分で判断しなくてはならない。そこまでの自信はなかなか持てませんでしたね。

地道な努力を続けていたある日、真介に転機が突然訪れる。何気なく拾った一枚の紙切れが、その後の修業内容を変えてしまうのだ。
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