「この道しかない」と不安を煽るのは思考停止

だいたい、低所得者対策といえば「消費減税以外に方法がない!」と言わんばかりの硬直した発想はいかがなものか。

物価高対策なら消費減税のほかにも、例えば物価そのものが下がるよう仕向けるとか(備蓄米の放出もその一つだ)、賃上げなどで文字通り「手取りを増やす」とか、保育や教育、介護などの公的分野で利用者の自己負担額を抑えるとか、さまざまな方法があるはずだ。立憲民主党もすでに「給付付き税額控除」(ざっくり言えば、消費税の一部を低所得者に還付する)という政策を掲げている。

政権与党の政策に対し「本当にこの道しかないのか?」と問いかけ、新たな選択肢を提示するのが、野党第1党たる立憲民主党の役割だ。立憲は与党に対してだけでなく、伝統的に野党が掲げてきた政策についても、同様に「本当にこの道しかないのか?」を問いかけ、積極的なアップデートを図ることに尽力すべきだと思う。

立憲は減税消極派の野田氏を代表に選んだ

③公約化は昨秋の党代表選結果を踏まえていない

立憲民主党は昨年9月に代表選を行った。党員も投票に参加したフルスペックの選挙だった。政策面での最大の争点は、まさに消費減税の是非だった。

代表選には4人が立候補した。低所得者対策について、吉田晴美氏は「食料品にかかる消費税を『ゼロ税率』に」と訴えた。現職代表だった泉健太氏は、給付付き税額控除の方が減税に比べ「直接低所得者の懐を温める」と指摘しつつ「食料品消費税ゼロ」を訴える党内の声に一定の配慮をした。

元首相の野田佳彦氏は、消費減税の「富裕層ほど恩恵が大きい」点を指摘、党を創設した枝野幸男元代表も、物価高対策としては給付の方が早く実行できると指摘した。

都知事選に立候補した蓮舫の応援演説をする野田佳彦(=2024年7月6日、新宿駅前)
都知事選に立候補した蓮舫の応援演説をする野田佳彦(=2024年7月6日、新宿駅前)(写真=Noukei314/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

代表選の結果、減税に最も消極的だった野田氏と枝野氏が決選投票に残り、最終的に野田氏が代表になった。野田氏は衆院選の選挙公約に給付型税額控除(消費税還付)を盛り込み、記者会見では「これまでの党の到達点」と言い切った。その衆院選で立憲は50議席を上回る議席増を実現。「少数与党」の国会で大きな存在感を発揮している。

投票の基準は一つではない。だが、代表選で示された党員の声も、衆院選における有権者全体の声も、立憲に「減税」を訴えることを求めていないとみるのが自然だ。

政党が大きくなれば、党内に主要政策とやや異なる考えを持つ議員も生まれるだろう。政権政党を目指すには、多様な考えをある程度包摂する必要もあるだろう。筆者も党内議論を全否定はしない。だが、少なくとも野田代表の任期中である夏の参院選で「公約に掲げよ」と迫るのは、代表選の意義を失わせ、コアな支持層の失望を招くことを忘れてはいけない。