緑の党の要求はますます膨れるばかり
ところが、今、緑の党に縋るしかなくなったメルツ氏は、議会のスピーチで緑の党におべんちゃらを言って、場内の爆笑を買っている。ここまで無能な作戦があるだろうか?
一方、これを千載一遇のチャンスとみた緑の党は、その見返りに自分たちの要求をどんどん膨張させ、それが認められなければ、債務ブレーキの緩和には賛成しないと見栄を切った。その結果、総選挙のやり直しになっても、今より議席数が減ることはないと思っているらしく、要するに怖いものなしだ。
そこでメルツ氏は緑の党に、債務のうちの1000億ユーロを気候対策のために特化させると約束。そればかりか緑の党の、「基本法(憲法に相当)に2045年までの脱炭素の目標を明記しろ」という要求まで呑んだ。これにより、将来のドイツの脱産業化は、そう簡単に歯止めが効かなくなるだろう。
なお、3月9日に公共第2テレビのインタビューで、「健全財政を掲げていた公約を、なぜ、今になって破るのか」と尋ねられたCDUの幹部は、この期に及んでも、「米国のトランプ大統領がヨーロッパの防衛から退く可能性があるから」と答えていた。もちろん、債務は軍備増強にも充てられる。すべてはトランプ大統領のせいである!
ドイツ国民は敗者となるのか
3月18日、旧議会が招集された。午前中から、各党の代表議員による激しい論争が数時間も繰り広げられたが、結局、513票対207票で、史上最高の債務パッケージは可決。なお、21日には連邦参議院(各州の代表が集まっている議会)でも採決が行われるが、メルツ氏はここでの反対を抑えるため、1000億ユーロを州に提供するとしており、スムーズな可決が予想される。自分の首相就任のため、あっちもこっちもお金で釣っている。
メルツ氏は、これで首相の座に一歩近づいたと思っているようだが、新議会での党首選の行方はまだわからない。緑の党の共同党首ハッセルマン氏は、メルツ氏が財政拡張の必要性を知りながら、選挙運動中ずっと有権者を“欺い”ていたと激しく非難。また、AfD、自民党、BSWによるメルツ、および、彼の財政拡張批判も当然、激しい。
そればかりかCDUの党内部でも、メルツ氏への反発はかなり高くなっており、反逆者が出る可能性も、今や否定できない。メルツ氏はいまだに、安全保障の緊急性を挙げているが、説得力には欠ける。