制裁の緩和を受けて再びロシア市場に参入したとしても、米欧日との関係が悪化すれば、対ロ制裁は再び強化されることになる。このようにカントリーリスクが高いロシア市場に再び参入しようという米欧日の投資家や事業者は限られるだろう。とりわけロシアにとっての懸念事項は、米欧のオイルメジャーから積極的な投資が見込み難いことだ。

世界最大の産油国であり、石油やガスの輸出が武器であるロシアにとって、西シベリアの原油の枯渇問題は頭痛の種となっている。一方で、豊富な埋蔵量が見込まれる東シベリアの油田開発は喫緊の課題であるが、それには友好国である中国のオイルメジャーのノウハウやマネーだけでは限界があるため、米欧のオイルメジャーの協力が不可欠だ。

しかし、そうした米欧のオイルメジャーがカントリーリスクの高いロシア市場に本格的に回帰する展開は想定しにくい。まして停戦に達しただけではなおさらのことである。油田の開発が進まなければ、ロシアは外貨を稼げず、友好国からの輸入でさえままならなくなる。米欧日の信頼を取り戻すには、それこそ長期の歳月を要することになる。

なおウラジーミル・プーチン大統領は、3月18日にモスクワで開催されたビジネスフォーラムの場で、ロシアから撤退した企業がロシア市場に再参入する場合、撤退に際しディスカウントして売却した資産をそのままの価格で買い戻すことは認めないと発言した。こうした環境のロシアに回帰する米欧日の投資家や事業者など、限定的だろう。

戦時体制がスタンダードになるロシア

結局のところ、停戦ないしは終戦となっても、ロシアの経済運営はウクライナとの戦争前の平時体制へ回帰することはできないと考えられる。一方で、ロシアで厭戦ムードが拡がっていることは確かである。政府が国民生活にさらなる犠牲を強いることもまた困難である。そのため、ロシアの戦時体制が一段と先鋭化する可能性も低いと考えられる。

少なくともプーチン大統領が最高権力者であるうちは、ウクライナとの戦争を経て移行が進んだ今の戦時体制のレベルでの経済運営こそが、ロシアのスタンダードになるだろう。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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