まず考えられないことだが、仮に米国がロシアの事業者による米ドルの利用を容認したとしても、再び制裁を科されるリスクに鑑みれば、ロシアの事業者は米ドルの利用に消極的とならざるをえない。それは国際銀行間通信協会(SWIFT)に復帰できても同様だ。再び排除されるリスクがあるなら、SWIFTへの復帰はあまり意味を持たない。
ロシアにとって意味を持つ制裁の解除があるとすれば、ロシア中銀がニューヨーク連銀に預けている在外資産の凍結の解除ではないだろうか。米国は経済・金融制裁の一環として、ロシア中銀がニューヨーク連銀に預けている米国債や金資産へのアクセスを遮断している。これを解除させた後、金塊にしてロシアに現送する可能性が意識される。
しかしロシアは、2014年のクリミア侵攻以降、米国から制裁を科されるリスクに鑑みて、外貨資産(外貨準備)の米ドル比率を下げ、ユーロやポンドといった他のハードカレンシー建て資産に振り替えてきた。その結果、2021年6月時点でロシアの外貨準備に占める米ドルの割合は16.4%まで低下し、代わりに32.3%がユーロとなっていた。
またポンドも6.5%を占めていた。言い換えれば、ロシアの在外資産の4割を保有しているのは欧州勢であり、米国は2割にも満たないわけだ。在外資産の凍結が解除されるにしても、EUや英国がそれに同意しなければ、ロシアは在外資産を十分に回収することができない。外貨準備の多様化が、ロシアにはかえって仇になっているといえよう。
米欧日の資本回帰も極限定的
それに、停戦に達したとしても、米欧日の投資家や事業者によるロシア市場回帰はかなり限定されるだろう。ここでロシアの対内直接投資の動きを確認すると、ウクライナとの戦争が生じた2022年以降は純減していることが分かる(図表2)。この動きは、欧米日の投資家や事業者がロシア事業を引き揚げたことを反映した動きであると考えられる。
ロシアは米欧日から科された経済制裁への報復措置として、ロシアから撤退しようとする米欧日の企業に対する規制を厳格化した。具体的には、ロシアから撤退しようとする米欧日の企業に対して、ロシア国内の資産を売却する際に、価格を大幅にディスカウントしない限り撤退を容認しないという規制を課したため、各社の撤退は困難を極めた。