日本人が長生きする本当の理由

それらを一挙に解決するような特効薬はないかもしれませんが、まずは日本のソーシャルキャピタル(社会関係資本)を見直すことです。

若月俊一(1910~2006年)。佐久総合病院を育て、農村医療を確立。(読売新聞/AFLO=写真)

ハーバード大学公衆衛生大学院のイチロー・カワチ教授は、「日本人はなぜ長生きなのか」と題する講演で、「日米豪を比較すると、日本人は塩分摂取が高く、アルコール摂取も過剰で、喫煙率も高く、ストレスも高い。過重労働でもある。それにもかかわらず、なぜ長寿なのかについて研究した結果、ソーシャルキャピタルという概念に至った」と述べました。ソーシャルキャピタルとは、人間関係や、グループの信頼関係、規範といった人と人のつながりのことを指します。日本であれば、村祭り、盆踊り、寄り合いなどの行事や、「情けは人の為ならず」「持ちつ持たれつ」「お互いさま」「おかげさま」「好きな人と好きなところで暮らし続けたい」といった価値観です。

都会で認知症になって鍵や金銭の管理ができなくなってしまったら、地域の中で暮らし続けることは難しい。しかし、農山村であれば認知症がはじまっても、周囲の環境が変わらないのでずっと普通に暮らせる。ボケたことを言っても「歳だから」ぐらいで笑ってすまされるし、周囲が支えあっているので生活上の不都合も少ない。むしろ軽度の認知症程度では施設に入ったほうが、環境の変化もあって認知症が進んでしまう結果をもたらしています。

農山村は、何かと窮屈で人間関係を束縛する面が多々あります。しかし、この関わり合いこそが、長野県の健康長寿を支えているのです。

(図版※注:平均寿命・死因(2010年厚労省)、野菜摂取量・肥満者(06~10年「国民健康栄養調査」男性)、賃金(12年「賃金構造基本統計調査」)、学力(12年「全国学力テスト」の小学生の推計値。ただし、岩手と千葉、宮城と山口、兵庫と神奈川、福島と徳島と宮崎、佐賀と鳥取と愛媛、岐阜と埼玉、愛知と福岡と群馬、島根と大分、栃木と大阪、滋賀と岡山が同順位)。)

(インタビュー・構成=小倉健一 写真=読売新聞/AFLO)
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