佐久病院の正式名称は「JA長野厚生連・佐久総合病院」です。JAとは農協のことですから、私たちの病院のオーナー、つまりボスは農民なのです。農民たちがなけなしのお金を出してつくった病院で私たちは雇われている。

「病院が赤字というのは困るけど、黒字にもならなくていいから、暇なドクターや医療関係者は地域に出て、私たちにいろいろ教えてくれ」というニーズに応えて予防に取り組むのが私どもの使命です。

若月先生がフツーの経済観念とはまったく異なる「経世済民(世をおさめ民をすくう)」という考えで長野へやってきたように、医療は市場原理至上主義や商業主義とはかなり相容れないものです。その一方で、医療は政治と非常に深いつながりがあります。日本で地域医療のさきがけとなったのは、地方農村の疲弊を心配された天皇家の意向を忖度した各地の帝国大学が医科大学のエース級を地方に送り込んだことからでした。

このまま日本がどんどんグローバリズムの流れに呑み込まれていった場合、ただでさえ人手が足りない地域の医療システムが完全に崩壊してしまう危険があります。趣旨が違うので今回はあまり触れませんが、TPPの交渉において参加した際の損得勘定ばかりが注目を集めてしまっていますが、日本のよき地域コミュニティを守り育てるために何が必要かの議論も大切なのではないでしょうか。

地方ばかりでなく、都市近郊でもコミュニティ崩壊の危機を迎えています。日本の高齢化は世界最大規模・世界最高速度という猛烈なスピードで進んでいて、2025年に65歳以上の高齢者人口は3600万人を超えます。そのうち、75歳以上の後期高齢者は60%を占めます。私は「3県問題」と命名したのですが、これから大都市近郊の神奈川、千葉、埼玉の3県が高齢化していきます。ニュータウンなどを端緒に、住まいの「高齢化」とあいまって人々の高齢化は地域コミュニティの弱い地域で、悲惨な結果を生むことになりかねない。防災という観点からも危うい。