経営陣が10時間サンドバッグになり、国民は溜飲を下げた

――しかし、会場にいた実感としては、フジテレビ経営陣は何時間も核心を避けた話しかせず、突破口が見つからない状態でした。どうすればよかったのでしょうか?

【白戸】先ほど申し上げた通り、ジャーナリストが会見で企業にすべてを明らかにさせることには、そもそも限界があります。さらに言えば、今回の会見の主目的は、フジテレビ社長、会長の辞任を発表し、「けじめをつけましたよ」とアピールすることだったのだと感じています。

そもそも日本では、不祥事を起こした企業は何のために記者会見しているんでしょうか? 残念ながら日本における不祥事企業の会見はしばしば、事実関係を説明するのではなく、カメラの前でトップがひたすら頭を下げ、怒りに燃える国民の溜飲を下げるために開かれていると感じています。私と同じ毎日新聞にいたノンフィクションライターの石戸諭さんの言葉を借りれば「記者会見がショーコンテンツ化」していて、その傾向が著しい。会見が不祥事を起こした組織の「禊ぎ」の場になっているのです。

会見場で居丈高に声を張り上げている記者の側にも、答えに窮する経営者の姿を見て留飲を下げることが目的になっているかのような人がいます。そこには「ジャーナリズム」の存在を感じません。背景には、本来ならば1時間で済む会見を10時間続け、経営陣がサンドバッグになっている姿を見せることが「誠意の表れ」と受け取られる精神文化があると思います。

フジテレビは、日本における記者会見のそうした位置づけを知っているから、10時間という異例の長さで会見の様子をテレビ中継したのではないでしょうか。会見後、会見場で声を張り上げていた記者に対する反感と、フジテレビの経営陣に対するある種の同情が市民の間に拡がった様子を見ていると、記者たちはフジテレビの「禊ぎ」にまんまと利用されてしまったと言えなくもありません。

フジテレビジョン取締役副会長 遠藤龍之介氏(左)、フジ・メディア・ホールディングスの社長・金光修氏(右)
撮影=石塚雅人
フジテレビジョン取締役副会長 遠藤龍之介氏(左)、フジ・メディア・ホールディングスの社長・金光修氏(右)