性被害の事件では被害者のプライバシーを優先すべきか

――ファクト、事実関係ということでは、今回、被害を報告した女性の氏名などを特定されることを避けるため、フジテレビ社員かどうかということも説明されませんでした。

【白戸】これは難しい問題ですよね。私が警察担当記者だった当時、性加害の末に女性が殺害された事件などで、警察から記者側に非公式な接触があり、被害者や遺族に対する二次加害を防ぐために、記事を書く時には性被害に触れないよう配慮してほしいと言われたことがありました。報道の自由は曲げることのできない原則ですが、現実にはメディア側に二次加害を防ぐ対応が求められると思います。

また、日本は世界的に見ても極端な「匿名社会」です。さまざまな調査を見ると、匿名でSNSを利用する人の割合が突出して高い。日本では、事件の被害者や目撃者が名乗り出ると、大勢の匿名の市民からSNSによって興味本位でからかわれ、中傷されることもあるので、被害者や目撃者も匿名で報道されることを望みます。こうして「匿名の悪循環」が生まれている日本で、被害を報告した女性が「匿名でいたい」と願うのは当然とも言えます。

辞任を発表したフジテレビジョン社長・港浩一氏(左)、フジ・メディア・ホールディングスとフジテレビジョンの嘉納修治会長(右)
撮影=石塚雅人
辞任を発表したフジテレビジョン社長・港浩一氏(左)、フジ・メディア・ホールディングスとフジテレビジョンの嘉納修治会長(右)

――女性のプライバシーを守ることには賛成ですが、社長たちはそれを隠れ蓑にして責任逃れができてしまうわけですよね。もし社員であるならばトップの責任はより重くなるのに、それは追及されずに済むわけです。そこがモヤモヤしました。

【白戸】そうですね。女性が社員なら、経営者には保護義務があります。ですから、社長たちが答えないとしても、記者側が「フジテレビの社員なのですか」と質問するのは当然だと思います。