「俺がいなくちゃ、このグループはもたない」
「笑っていいとも」、「オレたちひょうきん族」の流れをくんで、吉本興業との関係を深くし、無名の芸人による学芸会なみの番組も目立つようになりました。
当時クーデター劇を演出した一人で、私が今も「同志」として敬愛するフジの幹部がいます。彼は、そのことで何度も日枝氏に引退を直言したそうですが、本人は「俺がいなくちゃ、このグループはもたない」の一点張りで、まったく引退を承知しません。
自分がクーデターを起こしただけに、自分にもクーデターを起こしそうな人物は徹底的に警戒し、干してゆきました。
私自身、文藝春秋という会社を常務で自ら辞めました。「文春砲」と呼ばれる会社の社長が社内の女性に隠し子を生ませ、それなのに会長になろうとしたので、それでは会社がもたないと諫言するためです。ネット時代ですから、検索すれば全容はわかるので、興味のある人は読んでください。
会社を辞めたあと、フジの幹部たちが私に送別会を開いてくれました。彼らの口から出た言葉が耳から離れません。「あなたには社長の可能性があったのに、その可能性を諦めて、現社長の会長昇格を潰したのは爽やかでした。残念ながら、私たちにはその勇気がなく、まだ会社にすがって生きています」と。
もちろん、フジの役員クラスの給料と文春の給料では、全然ちがいますから、高給を選択するのは家族のことを考えれば当然です。しかし、フジテレビは国から放送の権利を与えられた数少ない企業であり、報道の中立や、経営の透明さを要求される企業です。
今度の一連の騒動を見ていて、社員全員、そのガバナンスのなさ、社員を守る危機管理意識のなさはよくわかったはずです。他人事と考えず、国民の知る権利を満たす存在としてのフジテレビの社員であることを自覚して、経営のあり方、番組づくりの問題点、セクハラやパワハラなどの改善点を訴え、第三者委員会に厳しい意見を伝えるべきですし、経営陣に対しても文句をいう義務があると私は考えます。
最後に、会見直前に週刊文春が「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」というのは誤報であったということを、デジタルで小さく掲載し、1月30日発売の号でも編集長からとして小さくお詫びを掲載しています。私は、こういう誤りは姑息な手段ではなく、きちんと謝罪し、なぜ間違えたのか検証記事も掲載すべきだと考えます。
それが読者の信頼を取り戻す道であり、また、社員が同席していたかどうかは、フジが抱える大きな問題の一部でしかないことを理解してもらうためにも、それが大事な手段だと思うからです。