「そこそこの成績」ではダメ

MLBでは打率や打点などは全く評価されない。今の選手の評価は野球の統計学であるセイバーメトリクスに基づくWAR(Wins Above Replacement)が最も重視される。

吉田正尚のWARは、2023年が1.4でレギュラー野手の中では8位、投手も含めたチーム全体では14位。2024年も1.4だったがやはり野手の中では8位、チーム全体では13位だった。しかし吉田の年俸は2023年がチーム5位の1560万ドル(約24億円)、24年が3位の1860万ドル(約30億円)。

打撃成績はそこそこでも、吉田は「年俸のわりに働いていない」選手だとみなされている。しかも吉田の契約は2027年まで。あと3年ある。毎年、2024年と同じ1860万ドルを支払うことになっている。

チームとしては、若くて優秀な選手を獲得するために、吉田を含めた選手のトレードを画策しているのだが、吉田の高年俸が、足かせとなって成立していないのだ。

今から、吉田正尚の守備が見違えるように良くなって、外野手として素晴らしいパフォーマンスを発揮することは考えにくい。吉田としては打撃成績を上げていくしかない。しかしMLBではより年俸が安くて伸びしろのある選手にチャンスを与えるためにベテランの出場機会を減らすことはよくある。それが高年俸の打者でも躊躇はない。

ある意味、吉田の年俸を「サンクコスト=戻ってこない投資」とする可能性さえある。

吉田正尚の今の境遇は、近い将来のヤクルト、村上宗隆や巨人、岡本和真の境遇であるかもしれない。

「ホームラン打者→ゴロヒッター」に

本塁打王3回、打点王2回、首位打者1回、三冠王1回、間もなく25歳になる村上宗隆と、本塁打王3回、打点王2回、28歳の岡本和真は、ともにMLB挑戦を公言している。

この2人は間違いなくNPB最強の座を競う屈指の強打者ではある。しかし、MLBでNPB同様の成績をあげるかどうかは、また別の話だ。

NPBからMLBに移籍した打者は、ごく一部の例外を除いてすべて「小型化」する。

図表1は、2001年のイチロー以降、NPBからMLBに挑戦した主要な強打者(タイトルホルダー級)の打撃成績の変遷だ。

【図表1】メジャーに挑戦した日本人野手の成績
「比率」はMLBでの成績をNPBの成績で割ったもの。筆者作成

OPSは出塁率+長打率を表し、打撃の総合指標としてMLBでは重要視される。

MLBの野球殿堂入りが確実視されるイチローも含め、ほとんどの選手の打撃成績は小型化しているのだ。

特に顕著なのが、本塁打率だ。ざっくり言えば半減する。日本ではリーグ屈指のスラッガーがアメリカでは「並の打者」になってしまうのだ。

そんな中でたった一人、MLBに来てから本塁打、OPSを大幅に増大させたのが大谷翔平だ。

2024年10月5日、パドレスとの地区シリーズ第1戦の2回、同点3ランを放つドジャース・大谷。投手シース=ロサンゼルス
写真=共同通信社
2024年10月5日、パドレスとの地区シリーズ第1戦の2回、同点3ランを放つドジャース・大谷。投手シース=ロサンゼルス

彼は、MLBに来てから肉体が巨大化した。NPB時代は一度も取っていない本塁打王を2回獲得するなど、ヤンキースのアーロン・ジャッジと並び称されるMLB最強打者になった。

しかし大谷翔平以外は、誰も「小型化の壁」を越えることができていない。