己の欲せざる所は、人に施すこと勿れ

ワタミ会長 渡邉美樹氏

ワタミグループの礎は『論語』にあります。すなわち「恕(じょ)」、他人を思いやる心です。のちに弟子となる子貢に「一生行っていくべきことを一言でいうと何ですか」と問われ、孔子は「恕である」と答え、次のように続けます。

「己の欲せざる所は、人に施すこと勿なかれ」

自分がしてほしくないことは相手にもしてはならぬというのです。僕は事業を始めて以来、「恕」という考え方とずっと向き合って生きてきました。

たとえば居酒屋であれば、客席の灰皿が一杯になったら必ず取り替える。介護の仕事なら「もし自分の親がそこにいたら」と考え、おざなりな扱いは絶対にしない。そうして従来の「常識」を見直してきたのです。

大学時代から読んでいるので30年以上の付き合いです。しかし、何度読んでも読むたびに新しい。経験を積むごとに、言葉の奥に新しい発見があるからです。そのため、いつでも手に取れるように会長室やクルマや書斎、ベッドサイドなど、あらゆるところに置いてあります。

同じように『聖書』も僕の人としての骨格をつくってくれた書物です。ただ、とりわけ滋味深く思えるのは『論語』のほうです。たとえば、こんな一節があります。

「私は力不足で、先生の説く生き方を実行するのが難しいのです」

こう弱音を吐く弟子に対して、孔子は「力の足りない者が途中で挫折して中止することはやむを得ない。しかし、いまの君は、自ら見切りをつけている」と答えます。

「できない」のではなく、あきらめたのだというのです。本当に力不足であれば、力尽き前のめりに倒れるからです。これなどは、世の中の新入社員みんなに贈りたい言葉です。