日本アニメの未来
では生成AIでアニメを制作すると、どんな状況が出てくるだろうか。もちろんプラスとマイナスの両面があるだろう。
○ 法的問題
まず法的な問題などが顕在化する。著作権をめぐる争いは、米国ではテキストや音楽の世界ですでに起こっているが、アニメでも同様の問題が起こり得る。また著作権以外にも、肖像権やパブリシティ権の侵害なども出てくる可能性は否定できない。
なにしろ登場したばかりの新技術だ。対応する法律は十分に整備されていない。また国内では判決に至った訴訟もない。つまり法的リスクはゼロではない。ただし生成AIコンテンツに挑むテレビ局などは、今回のカンテレのように、キービジュアルを自社職員で作成したり、背景映像などもアーカイブから応用したりするなど、一定の配慮と武装をして取り組めばリスクは限りなくゼロになる。
○ アニメ業界の今後
業界にはどんなインパクトを与えるだろうか。懸念のひとつは、生成AIが低コストで迅速に作品を作ることで、『君たちはどう生きるか』で2024年アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞した宮崎駿氏を筆頭としたジブリなどの作品・作風などが大きな影響を受けるのではないかという点だ。しかし、業界関係者はそれほど心配していないという。
NHKはニュース番組「おはよう日本」(1月7日放映)内のコーナーで、特集「“手描き”の力 ハリウッドが注目する日本の手描きアニメ」を取り上げた。
この中で、ハリウッド映画『ロード・オブ・ザ・リング』のシリーズの続編となる最新作(2024年12月から日本を含めた世界40か国以上で公開)の監督にアニメーション監督に抜てきされた神山健治氏(※)がインタビューに答えた。神山氏は宮崎氏など同じく、海外でも絶大な人気があるアニメ監督だ。
※アニメ『AKIRA』の背景制作担当のほか、監督作品として『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』『東のエデン』など多数
神山氏にオファーしたプロデューサーによれば、制作会社のワーナーアニメーション社長直々に続編を「日本のアニメの作画(手描き)にしてほしい」という要望があったという。
神山氏は番組でこう答えている。
「手描きはローテクではありますが、あの緻密な絵を1枚1枚たくさん描いて動かしていくこと自体がもはやマジックです。そこに魂が宿るわけで無意識に画面を通じて伝わるものがあるのだと思います。実はCGの映像もコンピューターの前で人が四苦八苦していることでは同じなのですが、CGにはその苦労がなかなか映りません。でも作画のアニメはそれがダイレクトに観る人に伝わっていく。今回の作品でもそれを一番生かしていこうというのはありました」
国内外にはこうした手描きアニメに根強いファンがおり、今後もビジネス的にヒットを飛ばし続けると見られている。
ただ、アニメ界全体とすれば、生成AIが低コストで迅速に制作できることにより制作スタイルが大きく影響を受けるのは間違いない。一説には、コストは10分の1以下となると言われる。それが実現すると、これまでオリジナルのアニメ作品をあまり出せなかったテレビのローカル局やケーブルテレビ局も独自に挑戦できる可能性が出てくる。政府が注力する地域創生という追い風もある。要は新たな作り手たちによる新たなアニメ領域が生まれるかもしれなのだ。