大多社長の野望
実はこの新人アナ2人が主人公を務めたフル生成AIの制作は、カンテレ社長の大号令で始まった。系列のフジテレビ時代に一世を風靡したトレンディドラマを確立したプロデューサーのひとり、大多亮氏は、2024年6月にカンテレの代表取締役社長に就任した。
その際に「AIコンテンツで日本初を連発するようなイノベーティブな会社にする」と宣言した。そして社長就任初日の全社員集会でAIの可能性を強調し、自らがキービジュアルとして登場するショートAIアニメを披露した。
その作品のラストには、「coming soon on your screen」の文字があったが、今回はまさに公約通りに実行されたものだった。いわば社長から新人まで、全社をあげて挑戦するプロジェクトが本格的に稼働し始めたのである。
その意気込みは、大多社長の今回のコメントにも表れている。「当社はこのプロジェクトを、生成AIを活用した番組制作の第一歩、映像制作の未来を切り開くミッションとして位置づけています。ここで得られた知見を、クリエイティブ現場に対する新たなサポート手段に繋げ、放送にも活かしていきたいと考えています」。つまり「coming soon on your TV」も遠くないかもしれない。
2025年はフル生成AIアニメ元年
実はカンテレ以外にも、生成AIアニメに積極的に動き出している社がある。いずれも都内にオフィスがあるフロンティアワークスとKaKa Creation。TikTokやYouTubeで活動するTikToker「ツインズひなひま」の新作アニメで、生成AIを制作のプロセスに活用し、2025年春ごろの公開を予定するとした(アニメ「ツインズひなひま」ティザーメイキングPV)。
双子の女子高生が、TikTokへの動画投稿でバズることを夢見て、ダンスの他にPVが伸びそうなネタをかたっぱしから撮影していく中で、次第におかしな世界へ足を踏み入れていくという物語だ。
この2社は、「AIはあくまでクリエイターの創作活動のための補助ツール」と位置づけた。恐らく業界関係者の反発や懸念を意識した発言だ。ただしアニメ制作の人材不足や業務時間の肥大化という現実は否定できない。また新しい表現の模索という面からも、生成AIと向き合う必要性を認識したのだろう。
AIを活用した音声生成プラットフォームを運営する会社もある。にじボイスだ。経営トップは2025年の目標を「日本を代表するAIアニメーションスタジオを作る」と新年早々に宣言した。
米国で開催される最先端技術の見本市CES。開幕にあわせた今月7日の記者発表会で、パナソニックの経営トップは「10年後までにグループ売上の3割をAI事業(AIを活用した製品やソリューション事業)にする新戦略」を発表した。
「AIは人間のツール」から、AIと人間が補完し合いながら共創する関係に進化すると予測する専門家が多い。こうした時代状況を受け、アニメ制作の場でも生成AIを無視できなくなっている。