歌手のマドンナも大晦日に六本木の展覧会を訪れていた

この文章を読んで、10年前の離婚以来、離れて暮らしていた母子が最後に会えたと知って、ほっとし、同時に涙したのは、筆者だけではないだろう。

中山美穂さんにももっと長く生きて、大人になった息子さんとも関係をやり直し、おばあちゃんになって「人生たいへんだったけれど、すばらしかったわ」と言ってほしかった。改めて、その早すぎる死を悼む。

そして、アメリカの歌手マドンナも、この年末年始に来日し、「ルイーズ・ブルジョワ展」を訪れて、心をえぐられた1人だ。Instagramに日本で過ごした写真と共に、こうコメントを寄せている。

「『地獄から帰ってきたところ。言っとくけど、素晴らしかったわ』
大晦日に東京のルイーズ・ブルジョワ展でこのフレーズを見た。まさに私が言いたかったことだった。
母であり、アーティストであること。その喜びや苦しみ。
私には他の人生を生きるなんて想像できない。(中略)
2025年、私は本物の自分になる勇気のある人にグラスを捧げる。」
(マドンナInstagram、2025年1月2日)

マドンナはアメリカに帰化したルイーズ・ブルジョワと同国人であるし、もちろんルイーズのことを知っていただろうが、そんなマドンナにも、今回の大規模な回顧展は「言葉を奪われる」ほどの衝撃を与えたようだ。世界的なスターである彼女もかつて妻であったし、母であり、娘でもある。

かつてないほど「試される」展覧会

そんな風に女性たちの心を揺さぶり、過去のトラウマを思い出させるようなルイーズ・ブルジョワの作品は、うっかり見ると危険だという批判もある。横浜美術大学助教の横田祐美子さんは、自身のXでこう指摘している。

「ブルジョワ展、はっきり言って合わなかった。家族や他者への依存度が高すぎてキツい。壁の『そっとあやしてほしいだけ』で身の毛がよだつ。(中略)これではエンパワーされない」


「ブルジョワの作品や言葉は私には鬱陶しかった。自分で地獄を作り上げて、そこに閉じこもっている」

アートとしての評価を考えれば、70年間にも及ぶ創作活動で、絵画、版画、彫刻、インスタレーションとありとあらゆる手法を駆使し、具象と抽象を行ったりきたりしながら研ぎ澄まされた表現と高い完成度を見せたルイーズ・ブルジョワの作品群は、価値あるものに違いない。それが日本で一覧できる機会も、今後はあまりないだろう。

しかし、そこから受け取るものは個人差があり、中山美穂さんのように数日ショックを受けたままの人もいる。それを覚悟して見に行くかどうか。閉幕まであと1週間あまり、かつてないほど“試される”展覧会が終わろうとしている。

参考・引用文献
ルイーズ・ブルジョワ展 地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ』(森美術館・美術出版社)

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