女性のしんどさ、生きづらさをナイフを突き刺すように表現
中山美穂が最後にコメントしたのは、六本木ヒルズの森美術館で開かれている「ルイーズ・ブルジョワ展」(2025年1月19日で終了)についてだった。これがまた、筆者を動揺させた。
というのも、筆者はこの「ルイーズ・ブルジョワ展」を9月25日の開幕当初に見て、その内容のすさまじさに打ちのめされていたからだ。女のしんどさ、生きづらさをここまでズサズサとナイフを突き刺すように、露悪的に表現しまくったアーティストがいるだろうか。会場に展示された作品群を見て、思わず最後には「すごい、すごすぎる」と笑ってしまったぐらいのインパクトがあった。
そうか、ミポリンはあの美術展を見て「2、3日心がえぐられて、一緒に行った友としか会話が出来なかった」のか。無理もない、気持ちは分かると思ったので、彼女の死がより身近に、より辛く感じられた。
日本では一般的に「六本木ヒルズのクモの彫刻を作った人」というぐらいの認識だが、欧米では20世紀を代表するフェミニズム・アーティストとして知られるルイーズ・ブルジョワ(本人は自分の作品をフェミニズム・アートとは認めていなかった)。しかし、ふだん現代アートを見ない人がこの展覧会に来たら、ほとんどお化け屋敷のように感じるのではないだろうか。そこに並ぶ彫刻などのインスタレーションは、とにかく怖い。
まるでお化け屋敷のようにショッキングな作品が並ぶ
最初の展示作品からして、棚の中で人の首(布製か)が逆さまになっているし、妊娠中の大きなおなかをした女性や、乳房から母乳を出している女性には腕と手がない。かと思えば、どう見ても性器としか思えないグロテスクでリアルな造形が宙吊りになっていて、タイトルはなぜか「少女(可憐版)」。乳房が4つも6つもある女性の体の彫刻もある。ガラスケースに閉じ込められた黒焦げのような人型の男女は、性交中らしいがどちらも首がないし、男が女を無理やり襲っているようにも見える。
壁に映し出された動画作品では、女優が迫力のある声で「マーザーァ!(お母さん)」と叫んでいる。
絵画作品でも、胎児を宿した妊娠中の女性に男性が挿入していたり、股の間から赤子がどーんと出てきていたりと、これでもかとばかりストレートに「性」と「生」を描いている。代表作である巨大なクモの形をした彫刻「ママン」(六本木ヒルズのパブリック・アートでもある)で表現しているのも、卵を宿した母親だという。