アメリカ人と結婚し3人の子を育てながら、創作活動を続ける
それでも3人の子を育てながらアーティスト活動をするのは、時間を捻出するだけでも困難だった。「荷を負う女」という彫像を作って、「女は責任を一身に負う。そう、それはよい母親ではないかもしれないという恐れ。」という言葉も遺している。
そのようにルイーズ・ブルジョワは、娘であり、妻であり、母である人なら、その人生の各ステージで味わったことのある生きづらさを鮮烈に具象化している。すべての女性が妻であり母であるとは限らないが、娘でない人はいないので、ほとんどの女性に「刺さる」表現になっているのだ。しかも、かなり鋭く、痛みを伴う鑑賞体験となる。
中山美穂さんも妻であったし、母であった。子どもの頃は、母と再婚した父親に育てられ、実の父親がどんな人かは知らなかったという。そんな娘時代の複雑な境遇や両親に対する気持ちも、これらの作品とシンクロしたのかもしれない。
中山美穂は「地獄から帰ってきた…」という文字を投稿
ミポリンが最後に投稿したInstagramには、ルイーズが60歳で夫を亡くし、その23年後に、取っておいた夫のハンカチに文字を刺繍した作品が写っている。その作品には、こう綴られている。
AND LET ME TELL YOU, IT WAS WONDERFUL.」
「地獄から帰ってきたところ。言っとくけど、素晴らしかったわ」という展覧会の副題にもなっているこの印象的な言葉。ミポリンがこの言葉をどう理解したのだろうか。
他にも、もし展示会場でミポリンが目にしていたら……と、ドキッとするような言葉もあった。
それは「彼は完全な沈黙へと消え失せた」(1947年)という版画と物語風の詩による作品のひとつで、日本語訳にはこうある。
あるとき息子ひとりの母親がいた。母親は心から息子を愛していた。
そして世界がどれほど悲しく邪悪か知っている母親は、息子を守った。
(中略)息子は若いうちにバタンと扉を閉めたきり、二度と家には戻らなかった。
後に母親は亡くなるが息子はそうとは知らなかった。」
中山美穂さんの葬儀に際して、妹の女優・中山忍さんが発表したコメントにはこうある。
「お別れまでのほんの数日間ではありましたが、子供の頃に戻って枕を並べ、姉の横顔を見つめながら眠りについたこの穏やかなひとときは、私の宝物となりました。
そして、何より姉が幸せを願ってやまない愛する息子と、再会の時間をもたせてあげることができました。手を繋ぎ、そっと寄り添う2人の姿は、とてもとても幸せなものでした。」
(中山美穂オフィシャルサイト「中山忍様からのコメント」2024年12月12日)