「対話を通して対立を解消する」体験をさせる
【工藤】やったことがないことは意識できないものです。だからこそ僕は、子どものうちから対話を通して対立を解消し、誰も置き去りにしない社会をつくっていく体験をさせてあげることが必要だと思っているんです。
もちろん、対立のある状態から合意に至ることは決して簡単ではありません。戦争がなくならないのも、外交努力だけでは平和的解決ができないケースがあるからでしょう。でも、すべての対立が暴力的手段に訴えないと決着がつかないかというと、決してそうではない。学校で起こる対立くらいなら、平和的解決ができるんです。
だから子どもたちにはどんどん対話させる。そのときに欠かせないのが、やはり大人の適切なフォローです。単に対話を続けさせたところでみんな好き勝手に意見を言うだけですから。感情的な対立に発展したり、好き嫌いの話になって平行線をたどったりと、話が前に進まないですよ。
【苫野】対話にはコツがあるんですよね。
コツは「最上位目標」を設定すること
【工藤】はい。そのコツが、「みんながOKと言える最上位目標」という概念です。
みんなで意見をだしあって何かを決めるときは、必ず最初に「みんながOKと言える最上位目標」を決める。そして最上位目標で合意ができたら、それを実現する手段をみんなで考える。対話をしている最中はいろいろなアイデアがでてくるので、小さな意見対立は起きます。
でも「これって何のためにやるんだっけ?」というところで合意ができていれば、深刻な対立に発展しづらい。それに、自分のアイデアが採用されなかったとしても、自分が合意している最上位目標が実現すれば、少なくとも「置き去りにされた」という感覚にはならないはずなんです。
【苫野】最上位目標の設定に際して、「誰一人置き去りにしない」ということを明確にしているのがミソですね。
【工藤】そうです。子どもたち同士の対話を促す取り組みをしている学校は全国にありますが、最上位目標として「誰一人置き去りにしない状態」を目指しているかどうかで、その学校が民主主義教育をしているかどうか、はっきりわかります。
もし最上位目標を設定しない、もしくは最上位目標で合意していない状態で対話をさせているとしたら、正直かなり無責任なことをしていると感じます。だって対話によって対立を乗り越えることなんて、日本では大人もできないのに、子どもならできると考えるのがおかしいじゃないですか。