いかにロイヤルカスタマーを作るか

髙田さんは次に携帯電話の販売代理店を始め、数カ月で驚くほどの契約を得る。通信会社から表彰されて、ハワイにも行った。ところが、髙田さんにとって「めっちゃ簡単」なビジネスは、通信会社側の事情で1年もせずに終息する。

やることがなくなってブラブラしている時、髙田さんから大量に携帯電話を買い取っていた大手企業の幹部が「京都で独立するんやけど、一緒に来てやれへんか」と声をかけてきた。ふたつ返事で京都行きを決めた髙田さんが入社したのは、高級な和服、洋服、毛皮などを販売するアパレル企業。そこには驚異的な売り上げを誇る女性の本部長がいた。顧客に「崇拝されているように見えた」という本部長から、髙田さんは「お客さんを、いかにロイヤルカスタマーにするか」を教わった。

「例えば、本部長は相手の心を開くのが超得意なんですよ。初めて会った人がみんな、本部長を好きになる。なんでかなと思ったら、本部長が最初にお客さんのことを好きになってるんですよね。どんなお客さんにも、関心を持って話しかける。『あなた初めての人? その猫ちゃんのブローチどうしたの、ステキね』って。それで本部長のファンになった人たちに対して、AIDMAの法則(商品を認知してから購入に至るまでの過程)に従って科学的にアプローチすると、自ら喜んで本部長の勧める高額商品を買うようになるんです」

ラーメン
筆者撮影
「ぶたのほし」の人気メニュー、さかなとんこつスペシャル

29歳で手取り1500万円の営業部長に

髙田さんが「こういうことか」と肌で感じたのは、大学生の頃から何度も読んだ松下幸之助の本に書かれていたことだ。

「松下幸之助は、人とモノとお金のダムを作るのが経営と書いています。先のことを考えずに人、モノ、お金を使うのではなくて、ダムを作って、貯めたなかから必要な分だけ活用する。使った分が常に溜まるような仕組みと工夫と努力をしなさいという内容です」

髙田さんには、本部長を支える分厚い顧客層が、ダムになみなみと貯まる水に見えた。

厳しい本部長のもとで鍛えられた髙田さんは、凄腕の営業マンとして成り上がっていく。29歳で営業部長に抜擢され、給料は手取り1500万円、さらに会社から支給された経費用のカードを自由に使うことが許された。183センチの長身にアルマーニのスーツを着込み、京都の繁華街を闊歩かっぽしていた男はしかし、まだ満足していなかった。もっと儲けたい――。

欲望に燃える髙田さんが目を付けたのは、孫正義だった。孫正義とソフトバンクに関する書籍をすべて読み、スケールの大きさに感嘆した髙田さんは、決意する。

「この人に全財産を賭ける」

店内の様子
筆者撮影
「ぶたのほし」の店内。ラーメン店のイメージとは異なるオシャレな雰囲気