赤字覚悟のプリウス、利益確保のインサイト
ホンダは新型インサイトを09年2月に発売し、お陰さまで4月の車種別販売量ではハイブリッド車として初の首位となりました。世界的に環境意識が高まっているところへ経済危機が直撃し、低価格の低燃費車ということで支持を受けたのだと思います。
このクルマの開発は3年前にスタートしました。その時点で私が抱いていたのは次のような将来像です。
原油をはじめ鉄などの原材料価格は上昇基調にある。それはBRICs諸国のほか発展途上国が経済的に豊かになり、一般大衆が経済力をつけて先進国レベルに近い消費を始めるからだ。つまり地球規模で原材料の需給が逼迫するだろう。
すると、地球環境問題を重視するだけではなく、新しい時代においては「燃費」が決定的に重要な意味を持つ。だから専用車体を持ったハイブリッド車を開発すべきである――こう考えたのです。
純粋に燃費や環境性能という面で考えれば燃料電池車が理想でしょう。しかしわれわれは、実用に耐える燃料電池の開発がそう簡単にはいかないことを承知しています。バッテリー駆動の電気自動車も普及するまでには時間がかかります。
だから、ハイブリッド車のラインアップをある程度揃えなくてはならないだろうという認識を、私たちは3、4年前の段階で持っていたのです。
新型インサイトは、性能やデザインのほか200万円を切る低価格に人気が集まっています。なぜこの価格を実現できたのかを最後にお話ししましょう。
新型インサイトの開発で徹底したのは、実走燃費でライバル車にひけをとらないことと、ガソリン車との価格差を20万円までに抑えること。これが必須の条件でした。そのうえで、ホンダらしい走りを実現すること、スタイリングがいいことを求めたのです。
トヨタのプリウスが、赤字を覚悟で値下げで対抗しても、インサイトのほうがまだ十数万円安い。プリウスに十数万円分の付加価値があるのかどうかはお客様に判断してもらえばいい。インサイトは、あの価格で当然利益を出しています。
もちろん、それを形にしたのは開発チームによる懸命な努力です。しかし企画段階で明確な方針を示していなければ、どんなクルマができていたでしょうか。手前みそになるので、これ以上語るつもりはありませんけれども(笑)。
※すべて雑誌掲載当時