「私も頑張ったら上がれる」
傍から見れば、希望を失ってもおかしくないような厳しい環境に身を置きながらも、21歳の恋さんは力強く話す。
「苦労している人の方が上に上がれる。だから私も頑張ったら上がれる」
「上に上がれる」その上とは何なのだろうか。上に上がったらバレエだけで食べていけるようになるのか。恋さんのひたむきな人柄を知れば知るほど、次々と溢れるモヤモヤとしたやるせない気持ちを抑えるのに必死だった。
「頑張って上に上がってください」
無責任この上ない言葉をなんとか絞り出し、この日の撮影は終わった。
まったくバレエに関わりのなかった僕が、徐々にバレエの世界へと足を踏み入れている。そこには正面から見た華やかなバレエの世界とは程遠い、過酷な現実が容赦なく広がっている。バレエへの入り口を完全に間違ってしまった。そんな感覚だった。