「バレエの先生」をバイトにする人が多い

恋さんは淡々と話すが、これは果たして笑っていい冗談なのか、と逆に困惑してしまう。

そんな恋さんの話を聞いて、ある言葉を思い出した。

「好きなことで、生きていく」

少し前にYouTubeが掲げたキャッチフレーズだ。

しかし現実はそう甘くない。もちろんバレエ界に限ったことではなくて、どの業界もきっとこんなような現実が腐るほどあるとは思う。しかし、バレエは舞台上が華やかなだけに、そのギャップが激しい。バレリーナの実際の生活を見てそう思った。

「好きなことで生きていけない現実」がある一方で、バレリーナは「バレエの教え(先生)」をバイトにする人が多いという。なぜならその需要が日本ではとても多いからだ。密着開始前に調べたネットの情報にあった通り、「習い事としてのバレエ」においては日本はバレエ大国なのだ。

そんな需要に対して「プロバレエ団に在籍している」という、ある種のブランドを使って集客をし、自ら教室を持ったり、講師として外部の教室に招かれ、その指導料で稼ぎを得る。それが一つのビジネスモデルとしてバレエ界では確立されている。「自らが踊る」よりも「教える」ことの方が稼げる。そうして教わった生徒がプロとなり、再び教える側に回る。こうして日本のバレエビジネスが形成されている。

バレエ教室の先生と生徒
写真=iStock.com/seven
※写真はイメージです

「プロとして踊るだけで食べていく」のは日本では困難

やはり海外のように、「プロとして踊るだけで食べていく」というのは日本ではかなり困難な道らしい。

バレエの教えのバイトはしないのかと恋さんに聞くと、「まだ教えられるような立場ではないので」と即答された。

実際のところ彼女ほどの肩書き(元アメリカのプロバレエ団員)と実力があれば、教える側としての需要はあるだろう。とはいえ復帰したばかりの恋さんは「今は自分の能力を高める方に向き合いたいので、変に教えのバイトはしない」という考えらしい。

しかし、実際問題、その「成長のために自分と向き合う時間」がバレエとは関係のないカフェバイトに取られてしまうという負の連鎖に陥っているように僕は感じてしまった。

この日が入居日だが、家具や家電はまだない。あるのは大きなスーツケースのみ。これが彼女が今持っているものすべて、と言っても過言ではない。

荷解きを始めると、ぎゅうぎゅうに押し込まれた洋服などの生活用品の中から、光沢のあるピンク色の靴のようなものがいくつも姿を現した。

「これは何ですか?」