欧米ほど激しくはなかったが後を引いている日本のインフレ

物価高騰、すなわちインフレの状況については、以上ふれてきた魚や肉よりも野菜やコメの価格高騰が話題になることが多い。しかし、野菜やコメの価格変動は、天候不順や不作に由来する一時的な性格の強いものであり、それに対して魚や肉の価格変化は、一般的な物価動向に沿うとともに、気象変動や資源状況、あるいは飼料を含む穀物貿易を阻害する国際紛争といった長期的な要因によって影響されるところが大きいものである。

すなわち、そのトレンドを理解することが日本の将来を示唆するような動きであるので、ここでやや詳しく紹介した。

次に、具体的な魚や肉の価格から離れ、より一般的な物価動向について、日本の動きを欧米の動きと比較してみよう。

その場合、世界共通の基準で作成されている消費者物価指数の動きを各国比較するのが王道である。そうした場合に普通使われる対前年同月比の推移を日本と欧米主要国について示したグラフを図表2に掲げた。

【図表】世界で荒れ狂ったコロナ後のインフレ、長引く日本のインフレ
筆者提供

この数年は新型コロナの蔓延によって、家計やものの値段が大きく影響されてきたので参考データとして新型コロナが深刻となった時期を知るため、世界の月別の新型コロナ死亡者数の推移を図に同時に示した。

2019年までは各国でインフレ率は1~3%程度で比較的落ち着いた動きを示していた。日本は欧米のインフレ範囲の最低レベルで推移していた。

ところが、2020年からは、折から大流行がはじまった新型コロナのパンデミックにより消費が低迷したためインフレ率は各国で大きく低下し、日本ではマイナス、すなわちデフレ状態に陥った。

ところが、新型コロナのインパクトが弱まりつつあった2022年の2月にはロシアのウクライナ軍事侵攻がはじまり、それにともなってエネルギーや穀物価格が上昇してインフレが顕著に進み、各国で大きな生活上の問題となった。

インフレの高進はロシアのウクライナ侵攻以前からはじまっており、またコロナ被害の程度とインフレがX字交差で推移していることから、コロナの鎮静化とともに生じた巨大なリベンジ消費にコロナの影響で失われた供給力がなかなか追いつかなかったことで世界的なインフレとなり、それをたまたま起こったロシアのウクライナ侵攻がさらに促したという見方もかなり説得力をもっている。

この大インフレ時代に国民が生活苦難に陥った欧米各国では、経済運営に失敗し国民を困窮に陥れたという理由で政権担当政党に対する批判が渦巻くこととなり、これが主因となって、例えば、今年行われた米国大統領選では、民主党バイデン政権の後継候補であるカマラ・ハリス副大統領が野党共和党の大候補トランプ前大統領に敗北した。フランスやドイツなど欧州各国でも政権が不安定となっているのも同じ理由からと言える。

日本ではインフレの程度が欧米諸国と比べてかなり低かったので、欧米諸国における生活難や政権運営の困難さに対して思いが至らない状況にある。

2024年の現在では、世界的には、インフレは大きく収まりつつある。ところが、コロナ禍の影響が欧米より軽かった分、インフレ度も低かった日本では、折から進行していた円安のため、食料などの輸入物価の高騰が続き、それとともにインフレもなかなか収まらず、現状では欧米と比較しても高いインフレ率で推移している。