非正規雇用や低賃金でもがまんして働くしかなかった就職氷河期世代。労働経済学を専門とする近藤絢子さんは「氷河期世代の始まりである1971年生まれなら現在53歳前後。この世代は人口が多く、経済的に自立できていない人も最大換算で百万人を超える。この人たちが老後、困窮しないようにするにはどうすればいいのか」という――。

※本稿は、近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)の一部を再編集したものです。

階段で頭を抱えている中年男性
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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氷河期世代をはじめ、その下の世代も年収は低いまま

1993年から2004年の間に学校を卒業した就職氷河期世代を中心に、その前後の世代も含めて、雇用や年収の推移や家族形成、世代内の格差や地域間移動などを概観したところ、女性に関しては、出生率の下げ止まりや出産後の就業継続率の上昇など、上の世代よりも良くなっている部分もあったが、男性の年収や世代内格差については、氷河期をきっかけに生じたネガティブな変化が、ポスト氷河期以降の世代でも続いている傾向が見られた。

【図表】完全失業率(男女・年齢計、年平均)
出所=『就職氷河期世代』(中公新書)、総務省統計局『労働力調査』より筆者作成

就職氷河期世代、特に後期世代が、すぐ上のバブル世代に比べて、卒業後長期にわたって雇用が不安定で年収が低いことは、従来から繰り返し指摘されてきた。これに加えて、氷河期世代より下の世代も、景気回復期とされる2000年代後半に卒業した世代も含めて、雇用が不安定で年収が低いままであることもわかった。

90年代からの不景気は、単なる景気循環を超えて、労働市場に構造的な変化をもたらした可能性が高い。

ここでは特に、経済的に親に依存する層の拡大や、若年期の不安定雇用がもたらす老後の生活不安に焦点を当てて、現に顕在化しつつあり、今後ますます深刻化していくであろう問題について論じる。そのうえで、これから取りうる対策について、すでに失われてしまった人的資本蓄積機会への対応としてのセーフティネットの拡充と、これ以上の喪失を防ぐための雇用政策に分けて考えていこう。

親が高齢になるにつれて経済的に依存できなくなり困窮

就職氷河期世代で所得分布の下位層の所得がさらに下がり、ポスト氷河期世代以降も下位層の所得が上がらないことによって、所得格差が拡大傾向にある。とりわけ、ニートや孤立無業者といった社会との接点に乏しい無業者や、正規雇用の職に就いておらず親と同居する未婚者の割合が、就職氷河期世代以降の世代で増加している。その多くが親に経済的に依存していると考えられ、親世代が高齢となり経済的支援を受けられなくなると生活が立ち行かなくなる。

氷河期前期世代にあたる団塊ジュニア世代では、すでに問題は顕在化しはじめており、より一層雇用状況が厳しかった氷河期後期以降の世代の親が後期高齢者となるころには、さらに増えていくことが懸念されている。