親への申し訳なさと自分への惨めな思いが募り、なにかをやろうとすればするほど、蜘蛛の巣に囚われた獲物のように絡まって身動きが取れなくなった。
そんな中村さんを少しずつ蜘蛛の巣から解き放っていくきっかけが、読書だった。
「唯一の居場所」がジュンク堂だった
引きこもり生活の中で、唯一続いていた日課がある。当時住んでいた新高円寺駅から丸の内線に乗って、新宿の大型書店・ジュンク堂に行くことだ。
毎日のように店内で気になる本を手にって、ソファで読む。5時間ほど読み続けても、誰にも何も言われなかった。中村さんにとって「唯一の居場所」がジュンク堂だった。
読んでいたのは本田宗一郎や井深大など、技術者として独自の哲学を展開しながら社会に貢献した偉大な創業者の著書。華やかな王道経営者のストーリーとは違い、技術者として人生を切り開いた彼らの言葉は中村さんの心に響く。
他にもヘンリー・デイヴィッド・ソローやチクセント・ミハイなどといった思想家の本を通じて「働くとはなにか」「幸福とはなにか」を深く考えた。ひきこもり期間が長引くと、「とにかく自分の生活費を稼がなくては」という思いから、アフィリエイトや情報商材など小遣い稼ぎのノウハウ本を読む時間も増えていった。
とはいえ中村さんにとって、偉大な創業者の本も小遣い稼ぎのノウハウ本もひと続きなのだという。
「要は、どちらも自分の足で生きるっていうことなんです。自分にできる範囲で、自分の足で生きるために何ができるかっていうことを、リアルに受け止めるしかないんですよね。自分の場合はできることがたまたま何もなかった。何もないやつが、なんかやるにはどうするかっていう順で進んで行ったんだと思います」
「僕にとっては“さなぎ”みたいな時期だったんですよね」
このとき身体的に「うつ」の状態に陥っていた中村さんは、思考能力も低下し、体も動かなくなっていた。ベッドから起き上がれない日もあったが、それでも「根本的に信頼していた」自分を活かす方法を「蜘蛛の糸を掴むように」読書を通じて模索する。
「この時期は僕にとっては“さなぎ”みたいな時期だったんですよね。ぐちゃぐちゃなんだけど、その中で作り変わって変態していく。死を意識するほどに最もつらかった時期であると当時に、最も創造的な時期でもあったんです」
どん底で掴み取った「生きるためのパスポート」
引きこもり生活を続けていた9月のある日のこと。いつものジュンク堂で本を読んでいると、「カッコ悪いことで、みんながやりたがらないことをやろう」という一文が目に留まる。藁をも掴む思いで読んでいたのは、転売で小遣い稼ぎをするノウハウ本。
「転売は憧れるような仕事ではないし、なんならバカにされる仕事だと思ったけど、誰もやりたがらない仕事は素人でも難易度が低い。一度そこを切り替えないといけないと思ったんです」
さっそく自宅にあった大学時代の教科書をAmazonで出品すると、翌日すぐに買い手がついた。この時、それまで感じたことのない喜びに襲われたという。