古書ビジネスの矛盾をなくしたい

2024年6月、中村さんは初めて医療機関を受診し、躁うつ病の確定診断を受けた。ネットの簡易診断でそうだろうと思ってからは仲間にも説明してきたが、家族が増え、周囲により理解や協力を得ようと考えての受診だった。

社会から逃れてきたはずなのに意図しない社会性がうまれてしまったり、本を大切に扱いたいのに捨てる本をなくすことができなかったり……ビジネスを進めていくうえで起こる様々な矛盾に、中村さんは常に嫌悪感を抱いている。ひとつずつ矛盾の解消をはかってきたが、うつ状態になるとその嫌悪感は一層強まるという。

「自分の手が届く範囲で嫌なことが発生しないように丁寧にやれば、多分矛盾はないんだと思うんですけど、自分自身にも両面性があって、やりたくなってしまうんですよ」

躁うつの両面性とシンクロするように、事業の両極を振り子のように行き来しながら、中村さんは矛盾を統合する方法を模索する。

2024年現在、バリューブックスには1日に買取希望の本が約3万冊送られてくる。そのおよそ半数が値段がつかない「捨てる本」だ。

「捨てる本をなくすために、僕らが下流でできることはやってきました。でもこれからは、もっと上流の部分でなんとかしたい。出版業界は本を作りすぎているんです。その時だけ売れればいいというような、ファストファッション的な本の作り方をやめたいんですよ」

自分を救ってくれた“本”の力を信じている

中村さんは今、本を丁寧につくり読み継いでいく仕組みを構想し、「スローブック」をスローガンに掲げようとしている。

参考元であるスローフードは、食をとりまくシステムの見直しをはかるイタリア発祥の草の根運動。それを本になぞらえて、つくり手が生み出した本を最後まで見守れる仕組みをつくったり、買い手が本を大切に読む環境を整備したりと、本の社会運動にしたいと語る。

店舗NABOで開催される「読書室」の様子
写真提供=バリューブックス
店舗NABOで開催される「読書室」の様子

2024年9月から、バリューブックスの実店舗NABOでは、「読書室」という取り組みがスタートした。夜の店舗スペースを提供し、みんなで本を読む時間をつくろう、というものだ。中村さんはこれを「スローブックの一環の動き」として自らも足を運ぶ。

「情報が加速的になって本が読みにくくなっている現代において、読書室は、少しの緊張関係がある場所で本を読める自分に戻っていくっていう、リハビリ的な役割を担えると思うんです」

本を読むことの効果を自らの体験を持って実感してきた中村さん。本との出会いや関わりが人間を豊かにすると信じ、今日も矛盾と向き合っている。

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