管理職になりたくない人の増加で登場した「上司代行」とは

もちろん管理職の仕事は部下の指導・育成だけではない。

部門の戦略立案、予算の執行・管理、部下の業務管理、他部署との連携・調整から最近はパワハラなどハラスメント防止を含む労務管理まで多岐にわたる。

しかも日本の管理職は自ら現場の業務をこなすプレイングマネージャーが9割超を占めるなど、多忙を極めている。

こうした業務遂行の難しさもあり、管理職になりたい人が不足する中、「上司代行サービス」という新たなビジネスも登場している。

階段を上る3人のビジネスパーソン
写真=iStock.com/metamorworks
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社外のプロフェッショナル人材が若手人材を育成するサービスで、管理職に代わって仕事に対するアドバイスや個人のキャリア面談などを行う。

サービスを運営するHajimari(本社:渋谷区)の高橋睦史・メンタープロパートナーズ事業責任者は経緯を説明する。

「当社自身、事業が停滞しているタイミングで、現役の経営層として活躍されている方々と業務委託契約を結び、プロジェクトや事業の立ち上げを支援してもらったところ事業も成長した。それをきっかけに事業部長候補や役員候補に上司代行をつけて育成したところ非常に効果が高いことがわかり、2022年から部下や幹部候補の育成の部分を中心に上司代行サービスをスタートした」

上司代行を担うのは、年商200億円の企業に育てた創業経営者をはじめ大手企業子会社の社長や役員、部長を歴任した30~50代のプロフェッショナル人材だという。

同社に登録する10万人のフリーランスのうち、厳選された2500人の登録者が部下育成や事業責任者を代行する。大手企業からの依頼も多く、この2年間で100社と契約している。

「次世代の経営層を育成したい、管理職のレベルを上げたい、あるいは新規事業を生み出す力を管理職につけたいために上司代行を利用したいといったニーズが増えている」(高橋事業責任者)

たとえば、川崎重工では、新事業の分野に詳しい社外ビジネスメンターを新任の事業部長につけて、新事業への挑戦と人材育成を同時に推進している。

上司代行といっても四六時中張り付くわけではない。月に10~30時間程度の業務委託契約で、部下との育成面談や事業のミーティングに参加したり、管理職の役割を代行したりする。上司代行サービスの依頼が増える背景について同社の木村直人社長はこう語る。

「管理職は、組織マネジメントと事業の両方を背負っているが、ビジネスの変化のなかで上司1人では賄いきれない課題がさまざま出てきていると思う。事業の寿命が短くなり、違う領域からライバルが出てくるなど変化が激しい状況のなかで、それを担えるリーダーを育成していくことが難しくなりつつあるのではないか。そこに外部から上司代行の人がきて、マーケティングの部分や部下育成の面を代行するなど、いろんな役割のニーズが増えている。管理職の役割そのものが以前に比べて難易度が上がっていることもニーズの背景にある」