先生を論破しても、いずれ自分に跳ね返ってくる
ここで、ちょっと言いにくいことも記しておきます。本書冒頭(「はじめに」)で登場した生徒に関する話です。
ひろゆき氏に感化され「それってあなたの感想ですよね」といった言葉を誰彼構わず投げかけていた彼は、私が真剣に叱った後、同種の言葉を一切口にしなくなり、真面目に勉強をするようになりました。
ただ、私が叱っている最中、ちょっと気になることを彼は口走っていました。
「先生に対し、ひろゆきの口真似をすればするほど、通知表の成績は下がることになる。何の得にもならないことをしてどうするんだ」といった旨を話したところ、彼は「どうせ勉強できないし……」と、伏し目がちに口にしたのです。それまで喜々として口答えしていたのが嘘のように、その表情が曇ったのは明らかでした。
叱りすぎたのかもしれませんし、私の考えすぎなのかもしれません。しかし、その表情の落差に、なにか鬱屈したルサンチマンのようなものを感じずにはおれませんでした。
考えてみれば、彼のような勉強が苦手な生徒が、ひろゆき氏に感化されたのも自然な流れなのかもしれません。
日ごろ、先生から発せられる「~べき」や「~しなさい」という規範を守るのが難しい生徒からすれば、そこから生まれる敵愾心により、先生にマウントを取ってやろうという気持ちになるのも分かるような気がします。
勉強に適性のない生徒にとって学校の授業はあまりにも難しく、そしてそれ故に、持つ必要のない劣等感を抱かせてしまう仕組みが、学校や学習塾には内在しています。
でも、そんな劣等感を与えていた権威(先生)に復讐するため、「それってあなたの感想ですよね」のような言葉や思想でマウントを取り返し権威や規範を否定しても、それはすべて自分に跳ね返ってきます。繰り返しになりますが、この思想は一部の強者が得をするものであり、おいそれと活用するものではないことを強調しておきたいと思います。