なぜ豊田喜一郎は空を目指したのか
ジョビー・アビエーションの創業者、ジョーベン・ビバートはあいさつでこんなことを言っていた。
「私はトヨタの車が好きで、初めて買った青のピックアップにまだ乗っている。仕事でもまだそれを使っている。車の運転も大好きだ」
自動車が普及したのは老若男女、誰もが簡単に運転できるからだ。ジョビーの機体も自動車のように操縦が簡単だ。空飛ぶクルマが普及するかどうかは自動車のように簡単に操縦できるかどうかも重要な判断材料となるだろう。
前述したが、ジョビー・アビエーションの機体開発にはトヨタが協力している。同社が持つ車の技術が機体の性能を向上させている。一方、機体開発で得た知見をトヨタは車の技術に回帰させてもいるだろう。
つまり、車の技術と空飛ぶクルマの技術はお互いを向上させているわけだ。
豊田喜一郎が小型ヘリコプターの開発に手を付けたのも、空を飛ぶための技術がいつか自動車の技術にも役立つと信じたからではなかったか……。
飛行機を作った国が作る車はぜんぜん違う
かつて、インタビューしたことのある自動車の名エンジニア、桜井眞一郎が飛行機と車の関係について、こんな話をしていたことがある。桜井はプリンス自動車、日産で名車スカイラインの開発をした伝説のエンジニアだ。
桜井は言った。
「日本、アメリカ、イギリス、スウェーデンといった飛行機を作った国が作る車と、中国、韓国みたいに飛行機を作っていない国の車はぜんぜん違うんだよ」
私は素直に「いったい、どこが違うのですか?」と聞いた。
桜井はこう答えた。
「そりゃあ、キミ、空を飛ぼうと思ったことのないエンジニアが作った車なんて、まったく面白くないんだよ」