矢沢永吉さんにぶっ込んだ質問を投げる

ある晩の「夜ヒット」で、矢沢永吉さんが出演した。その回は、ニューアルバムのレコーディングをしているロサンゼルスのスタジオから生中継。

司会の僕としては、矢沢さんに、いい気分で生歌を披露してもらうことが第一の仕事だ。

しかし、順当に司会進行するだけではつまらない。あの矢沢永吉に、何か斜めからツッコミを入れて反応してもらいたい。それくらいのことをしなくては、自分の価値がない。当時の僕は、そんなふうに思い込み過ぎているアホだった。

そこで、こんな質問をぶつけてみたのだ。

「ところで矢沢さん、なんでビッグなアーティストって、ニューヨーク、ロンドン、ロスなんかでレコーディングするんですか? 下北沢じゃダメなんですか? 北千住じゃダメなんですか? レコーディングスタジオ、探せばあると思いますけど?」

一言一句、覚えているわけではないが、とにかく、こんな質問をぶっ込んでみた。事前に準備していた質問だ。僕にとっては勝負どころ。いけしゃあしゃあと言ってのけたように見せかけて、胸のうちはドキドキだった。

「おまえ、なんだ?」なんて矢沢さんに凄まれると覚悟していたし、テレビ局には矢沢ファンからの苦情が殺到して電話局がパンクすることも予想していた。いっそ「パンクさせてやれ」くらいの考えもあった。今でいう「炎上商法」である。

懐に飛び込んでくる人に心を開く人もいる

ところが、さすが矢沢さんは懐が深かった。

僕の質問に、まずカーッと笑って、「おたく、なかなか言うねえ。なんでそんなことわざわざ聞くわけ?」と言った。それに答えて「そりゃ、矢沢さんがビッグだからですよ」と僕。さらに「俺、そんなビッグかなあ。ま、そんなに気負わないで」といった具合に、矢沢さんが返してくださったのだ。

たぶん矢沢さんは、僕の失礼な物言いに、心のどこかではカチンと来ていたと思う。それを大人の寛容性をもって微塵も見せず、「何か目新しいことをしたい」という欲にまみれたガキンチョの僕を転がしてくれたのだろう。

そう思うと感服しきり、ますます好きになってしまった。

だからといって、その後、個人的なお付き合いに発展したとかではない。だが僕にとっては、矢沢さんや、矢沢さんのスタッフのみなさんには失礼なことをしたという申し訳ない気持ちはありつつも、決して忘れ得ない宝物のような体験だった。

ありきたりな準備では、ありきたりな話しかできない。そこから始まるのも、しょせんは、ありきたりな人間関係だろう。リスクをおかすのは怖いものだが、「この人は」と思った相手には、ケガをも覚悟で、思い切って踏み込んだ話をぶつけてみるのも手だ。

もちろん一瞬にして嫌われる可能性はある。しかし、おもしろがられたり、興味深く思ってもらえたりして一気に打ち解ける可能性もまた、同じくらいある。リスクをおかしてまで懐に飛び込んでくる人に、心を開く人も多いはずだ。