運命の健康診断
それから11年ほど経った2018年7月。52歳の夫は毎年会社で受けている健康診断で、すぐに病院に行くよう言われる。
病院を受診すると、膵臓がんと診断された。
すぐに手術を受け、2週間ほど入院した後、4週間飲んで2週間休むTS-1という抗がん剤治療を開始。膵臓(※)を切除したため、本来膵臓の役割である内分泌機能が落ち、インシュリンの分泌量が低下。糖尿病の出現を抑制するため、毎日の血糖値測定と就寝前のインシュリン注射が必須になった。糖尿病網膜症を防ぐため、1カ月に一度、眼科にも行かなければならない。
※胃の後ろにある、長さ20cmほどの細長い形をした臓器。膵臓には食物の消化を助ける膵液をつくり分泌すること(外分泌機能)と、血糖値の調節をするインスリンなど、いろいろなホルモンをつくり分泌する(内分泌機能)という2つの役割がある。
夫は治療を受けながらも、仕事は休まなかった。よほど体調がすぐれない日は、テレワークで対応した。毎週病院に通い、検査を受けたり処方薬を調整したりしていた夫だが、毎回血液検査の結果は芳しくなかった。
そして、膵臓全摘から約5年が経過した2023年10月。血液検査で腫瘍マーカーの数値が高かったため、CTを受けたところ、肝臓への転移が見つかる。
夫はすぐにがんを切除する手術を受け、1週間入院すると、再び抗がん剤治療をスタート。
「毎週のように通っていたのに突然転移が見つかり、驚きました。土曜日に診てもらえる外科だったので通っていましたが、今まで、抗がん剤が漏れて皮膚が壊死したり、夫にアレルギーがある薬剤を使ってアナフィラキシーショックが出たこともあり、だんだん信用できなくなっていました……」
今回は、点滴タイプの抗がん剤を使うフォルフィリノックスという治療法だった。この抗がん剤治療が始まると、夫はかなり副作用がつらそうだった。そのうえ、点滴をしてもらいに病院へ行き、つけたまま帰宅し、翌日針を抜きに再び病院に行くため、ほぼ毎日の通院が必要となり、夫の生活を圧迫した。
それからわずか3カ月たった2024年1月。年明けから夫が「足が痛い」と言い出した。正月休みが終わった整形外科へ行ってみたところ、
「骨に黒い影があるので、がんの主治医に診てもらってください」
と言われる。
すぐに主治医に診てもらうと、PET検査をすることになり、2月に結果が出た。背骨と大腿骨へのがんの骨転移だった。