いまだ勝利至上主義が残る高校野球
日本高野連から発表された「7回制」に向けた議論を行うワーキンググループの設置も、この酷暑の中で試合をするために時間短縮を目的としたものだ。午後の最も暑い時間を避けたうえで1日4試合を消化するには7回制が必要なのだ。
ただ、これは「野球」という競技の根幹にかかわる問題だけに、大いに議論を呼んでいる。
筆者は高校野球の指導者に意見を求めたが、公立高校の監督たちは「納得しているわけではないが、7回制導入もやむなし」という声が多かったのに対し、私学の強豪校は「7回制にすると野球が変わってしまう」「7回制になると有利なチームと不利なチームができてしまう」と否定的な意見が多かった。
球数制限の議論の時も同様だったが、強豪校の指導者たちは、新たなルールを導入して「力関係が変わってしまうこと」の懸念を口にする人が多い。
しかしルール変更すれば「野球そのもの」が変わるのだから、これまでの勢力図が変わるのは当たり前のことだ。それを問題視するのは、こうした指導者が野球界全体を見渡す大局観がなく勝敗に固執しているからだと思う。
「聖地を守る」のではなく「選手を守る」
またこれも球数制限の時と同様、指導者の中には「選手の意見を尊重すべき」と言う人がいる。これは一見もっともな感じもするが、高校生たちは、野球界の現状や、地球温暖化よりも自分の未来に熱中している。
強豪校の選手たちに聞けばほぼ全員が「9回でやりたい」と言うに決まっているのだ。指導者が「子どもたちが9回でと言っているから」というのは、大人として判断すべきことを選手にゆだねるという意味で、責任放棄ではないかと思う。
9月に入っても信じられないような酷暑が続いている。今年は昨年と並び「史上最も暑い夏」だったと言う。そしてこの酷暑は来年以降も続き、さらに温暖化は進行するとみられている。
7回制への移行は喫緊の課題ではあろう。しかし、7回制でも試合時間は2時間弱だ。これ以上気温が上昇すれば、何イニングであれ、この時期に試合をすること自体が困難になるだろう。
甲子園をドーム化するのか、大会会場、地域を変更するのか、開催時期を変更するのか、近い将来、さらなる決断をするときが必ずくる。
日本高野連、関係者は「聖地甲子園を守る」のではなく「選手と高校野球を守る」ために何ができるのか、先を見通した議論を始めるべきではないか。