執筆のきっかけは「フクシマ」だった

【水林】本を出版した後に起こることも日本とはまったく違って、作家はフランス各地の大小さまざまな書店の招待を受け、読者との討論会にのぞみます。日本でも作家が書店に呼ばれてトークイベントが開催されることはあるようですが、作家は「先生扱い」をされますよね。ところがフランスでは、書店のスタッフや読者と対等な立場で、自著についてディスカッションをするのが印象的です。

ぼくはフランス語で本を出版したことによって、大学でフランス語を教えているだけでは決して知ることのできなかったことを、たくさん経験することになりました。フランス「社会」を内側から経験したと言ってもよいと思います。

フランス語で書いた最新の小説、『忘れがたき組曲』が出版されたのは昨年の8月ですが、すでに書店やブック・フェアに40回以上呼ばれて、読者の質問を受けたり、他の作家と議論を交わしたりしました。ゴンクール賞のセレクションに入ったことから、フランス全国の高校生と交流したり、あちこちの刑務所に出かけて受刑者と討論するという経験までしました。フランスはとにかく、「議論の国、討論の国」なのです。