たねやグループの洋菓子部門である「クラブハリエ」は、99年に梅田の阪神百貨店にバームクーヘン専門店の「B-Studio」を初出店し、バームクーヘンブームに火をつけたが、これも挑戦の産物だ。代表取締役社長の隆夫氏が語る。
「あの頃のバームクーヘンは結婚式の引き出物という認識。粗品で配ると『バームクーヘンやったらいらんわ』と言われたこともあります。でも、うちのは本場ドイツのバームクーヘンではなく、日本風にアレンジしたバームクーヘン。味のよさも、工場で上から丸太のように吊るしてあるバームクーヘンにかじりついて食べると抜群に美味しいことも、自分はよく知っている。自分の経験から、店内で焼き上げ、焼きたてを切ってお客様に食べてもらおうと提案したんですが、周囲は猛反対。唯一賛成してくれたんが会長のおやじと工場長でした」
梅田阪神店は2カ月ほどで黒字に転換した。当初、同業者から「これは本当のバームクーヘンじゃない」と批判された味は、今や“業界スタンダード”になりつつある。
12年10月、クラブハリエは「クラブハリエキッズ」を阪急うめだ本店に出店した。小さな子どもにも、その母親にも気兼ねなく楽しく菓子に親しんでもらおうという新業態の舞台は、11階の子ども服フロア。食品フロア以外に菓子店が入るのは本邦初の試みだ。
伝統の味や既成のレシピ、業界の常識や慣習にとらわれず、「うちだったらどう表現するか」を追求するのがたねや流。必要とあればハード面から見直すこともある。徳次CEOが発案した「のどごし一番 本生水羊羹」を商品化した際にはクリーンルームの導入に踏み切った。
「この商品は容器に入れた後、殺菌をしていません。加熱をすると、甘ったるい味が出てしまうからですが、工場の感覚でいうと、そのためにクリーンルームを設置するというのはありえない。『のどごし』への思いが半端じゃないんですね」(商品開発室の松宮佐起子氏)
夏場限定発売の「のどごし一番 本生水羊羹」は12年に350万個を売り上げた。独自性にこだわる方針ゆえ、失敗作も少なくないが、「常に先の先を見据えてやっていかないとダメ。お客様の嗜好に合わせるのでは遅すぎる」と昌仁社長。この緊張感、スピード感がヒット商品を生み出す源泉なのだろう。