「大臣っていうのは何でもできるんだよね」

菅は、最優先課題として「地方創生」を掲げた。総務大臣時代(第一次安倍政権)に立ち上げた「ふるさと納税」制度を自らの実績として挙げ、地域の活性化の目玉を「観光」と「農業」と位置付けた。菅は「観光」、すなわちインバウンドについては自信を持っている。外国人観光客の誘致拡大について説明する。

「当初は法務省と警察庁の官僚が『ビザ緩和で治安が悪化する』と大反対でしたが、本当にそうだったでしょうか。外国人観光客が増えること自体は良いことのはずです。そこで私は当時の法務大臣と国家公安委員長の二人にまず了解をもらい、観光庁を所管する国土交通大臣と外務大臣を加えた五人の閣僚で、十分足らずで観光ビザの緩和を決めました」

豪腕・官房長官の面目躍如である。実はここに菅独特の政治スタイルがある。かつて初めて閣僚となった総務大臣時代に菅はこう語っていた。

「(驚くことに)大臣っていうのは何でもできるんだよね。政務官や副大臣とはまったく違う。大臣が決めれば、(国の仕組みを)変えることができる」

日本の国会議事堂
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「携帯電話料金の値下げ」に見る政治目標

菅は総務大臣に実際に就任して初めて、大臣の権限の大きさに気がついたという。「ビザ緩和」についていえば、関係する所管の大臣たちを集めていわば「関係閣僚会議」を主宰することを考えついた。その場で意見を集約して意思決定を行う。その結果を各大臣がそれぞれの役所に下ろすことで改革を押し進める。こうした変革のための閣僚たちによる意思決定スキームを、菅は発明した。

反対する警察官僚に、菅は「治安が悪くなるというが、それを取り締まるのがお前たちの仕事だろ、と言って聞かせた」と話してくれたことがある。この関係閣僚会議方式を使って、警察官僚たちを封じ込めたわけだ。事実、外国人観光客は836万人(2012年)から3188万人(19年)へと飛躍的に増えた。

菅の、政権構想というより政治課題の目標には、いつも具体的なターゲットがある。

最も有名な施策となった携帯電話料金の値下げを例にとろう。ターゲットは大手通信会社三社だった。「国民のライフライン」となった携帯電話の料金は世界で最も高い水準であり、同時に契約体系も複雑。「0円プランが横行していた」時代である。

大手通信会社の営業利益率が20%前後(大企業の平均利益率は約6%)であることを槍玉に挙げた。その後、菅政権において、大手三社の一角に楽天グループを参入させて楔を打った。さらに携帯料金を一気に4割近く下げ、契約体系も乗り換えを容易にする形に改めた。