「モリカケサクラ」は風化していった

安倍政権時代には、今の裏金問題に通じるようなスキャンダルもありました。森友学園問題(国有地の売却価格決定に安倍晋三・昭恵夫妻が関与した疑惑。2017年)や加計学園問題(獣医学部新設の認可にあたり、安倍内閣が便宜を図ったとする疑惑。2017年)、「桜を見る会」問題(招待者の人数・前夜祭の参加費などをめぐり、公職選挙法違反と政治資金規正法違反が疑われた。2019年)の3件、いわゆる「モリカケサクラ」です。

メディアや野党は安倍さんを厳しく糾弾・追及しましたが、安倍さんは「いつまで拘っているのだ」と言わんばかりに、追及を無力化して逃げ切ります。「モリカケサクラ」は次第に風化し、人々の記憶から消えていきました。政治的スキャンダルをごまかすという点で、今までにない現象です。

ところで、本書で裏金問題に関し、私は「政治とカネをめぐるルールの改革が定着した」と述べましたが、いっぽうで選挙制度の改革は、自民党の政治家たちの“足腰”を弱めたと思います。

政治家の足腰を弱めた「自民党公認」

1994年に公職選挙法が改正され、2年後(1996年)の衆議院議員総選挙から小選挙区比例代表並立制(以下、小選挙区制)が導入されました。

小選挙区で自民党の公認を得れば、衆院選ではかなりの確率で当選できます。しかも2012年に自民党が政権を奪還して以降は、野党が自滅・分裂していますから、「自由民主党公認」の看板が重みを増しています。裏を返せば、選挙戦で個々の政治家の運動量・熱量に負うところが少なくなったわけで、それが彼らの“足腰”を弱めたのです。

政治家の足腰が弱まり、劣化したことは能登半島地震(2024年1月1日発生)の災害対応からも見て取れます。政治家の動きが鈍い印象を受けるのです。

能登半島地震
写真=iStock.com/MasaoTaira
※写真はイメージです

東日本大震災の時、自民党は野党でしたが、それまで培ってきた地方の基盤があったので、さまざまな業界団体を動かして復興支援活動にあたったり、地元の声を吸い上げて政策提言したりするなど、民主党政権のできない部分を補完しました。

当時の自民党総裁・谷垣禎一さんは菅直人首相に、震災特命大臣の設置をはじめとする167項目の「第一次緊急提言」をしています(2011年3月30日)。