なぜ、江戸時代は性愛文化が発展したのか。大量に残されている庶民の古川柳をもとに、当時の女性の人生を研究した本を上梓した漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんは「もはやエロ時代と言ってもいいかもしれません。性欲が減退気味の現代人は、江戸時代から学べるものがたくさんありそうです」という――。

※本稿は、辛酸なめ子『川柳で追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)の一部を再編集したものです。

江戸時代のおそるべきナンパ術

男女が出会って恋に落ちる……人間の営みの基本ですが、江戸時代も、現代と同じような恋愛模様が繰り広げられていました。しかし、今では絶対に受け入れられないと思われるのが、男性が女性をナンパするときの手法です。

つめられるたんびに娘そだつなり 安八礼2
こころみにつめって見ればむごん也 明七宮1

つめる……、そう、「つねる」のです。タイプの女性を見つけたら、男性はその女性のお尻をつねって気を引いたそうです。叩くパターンもあったそうですが、どちらにせよ現代では軽犯罪の域。今自分で自分をつねってみましたが、お尻は脂肪が厚いので全然痛くないです。だからといってやっていいこととは思えません。しかし江戸時代では……。

憎くない娘他人につめられる 明八天2
間ちがひでたたひた尻が封じて来 明二仁3

間違って別の女性のお尻を叩いてしまっても、女性の方がその気になって手紙を送ってくることもあったり、この風習に対してまんざらではなかったようです。

一方で文化系男子の口説きは、手紙を送ることでした。つねるよりもはるかに紳士的です。

こわいもの見たし生娘封を切り 三七31
あたりをきっと見廻して文を出し 傍一10

周りに見られないよう胸を高鳴らせながら封を開ける乙女心。

恋の文へそといもじの間に置き 明八松4

いもじとは腰巻きのこと。大事な恋文を下着に入れて隠し持っています。やはりメールと比べ手紙は直筆で書かれていて、物理的に存在しているので、強いです。過去にも片思いの相手に毎日四十通手紙を渡し続けて結ばれた俳優や、交換日記で恋愛が盛り上がった有名人のカップルがいましたが、言霊の力が発揮される手紙の力が、また見直される予感です。